コラム

「タリバンに学べ」──アフガン情勢を注視する各地のイスラム過激派

2021年09月03日(金)17時05分
タリバン兵

カブール空港周辺をパトロールするタリバン兵(9月2日) REUTERS/Stringer


・世界各地のイスラム過激派はタリバン復権を強い関心をもってみている。

・そこにはタリバンが超大国アメリカを撤退に追い込んだからという理由だけでなく、どのように政治的に勢力を広げたかを学ぼうとする目的もある。

・タリバン復権は各地の過激派にとって、IS衰退の空白を埋める、一つの道しるべとなっている。

タリバン復権はアフガニスタンだけでなく、世界全体のテロ対策にとって大きな意味をもつ。

「タリバンに学べ」

タリバンにカブールが制圧された後、外国人や米軍協力者がアフガニスタン脱出を目指して空港周辺でかつてない混乱が広がる様は、多くのメディアで報じられている。

しかし、タリバン復権で揺れているのはアフガンだけではない。世界各国のテロ対策の担当者や専門家は今、イスラム過激派の動向に警戒を募らせている。

例えば、インドネシアではアフガン情勢と連動するように、今春からジェマ・イスラミア(JI)などイスラム過激派の活動が活発化しており、1週間で48人のテロ容疑者が逮捕された週もあった。

インドネシアの観光地バリ島では、9.11の翌2002年に外国人の集まるナイトクラブが爆破され、202人の犠牲者が出た他、2016年にはジャカルタで7人が死亡する銃撃戦が発生した。

このインドネシアでは最近、SNSでタリバンを賛美する書き込みが増えている。かつてJIの指導的立場にあり、現在はインドネシア警察の顧問であるナシール・アッバスによると、「アフガンに渡りたい」、「タリバンに学ぶ者を組織的に送り出すべき」など、タリバン復権に触発された投稿も多いという。

伝道者としての「アフガン帰り」

ネットだけでなく、リアルな人の移動によっても、タリバン復権の高揚感が各地に伝えられている。

アフガニスタンにはもともとアルカイダや過激派組織「イスラム国(IS)」なども流入していたが、そのなかにはタリバンと行動をともにする外国人も数多くいる。

その一部はすでにアフガンを離れており、その一人一人がタリバン復権の実体験を各地に伝える伝道者になっている。例えばロシアでは、分離独立を目指すイスラム勢力「北コーカサス首長国」に加わる者が増えており、その多くはアフガン帰りとみられる。

ワシントンにある世界政治研究所のポール・ゴーブルは「過激派に悩まされてきたロシアにとって、アフガン帰りは'ラクダの背を折る最後のワラ'になりかねない」と警告する。

「お手本」タリバン

タリバン復権がもたらしたインパクトの大きさは、超大国アメリカを撤退に追い込んだことだけが理由ではない。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック上昇、トランプ関税

ワールド

USTR、一部の国に対する一律関税案策定 20%下

ビジネス

米自動車販売、第1四半期は増加 トランプ関税控えS

ビジネス

NY外為市場=円が上昇、米「相互関税」への警戒で安
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story