コラム

インド首相はウイルスの「スーパー拡散者」──人災としてのコロナ蔓延

2021年05月07日(金)14時40分
コロナ死者の火葬を準備するインドの人々

コロナ死者の火葬を準備する人々(2021年5月6日、ウッタル・プラデーシュ州) Danish Siddiqui-REUTERS


・インドのモディ首相はコロナ第4波が迫るなかで行われた4月の選挙で、選挙活動を自粛した野党と対照的に、堂々と多くの支持者を集めた。

・そのうえ、モディ政権はムスリムに集団礼拝を禁じながら、支持基盤であるヒンドゥー保守派に配慮して、ヒンドゥーの宗教行事で密が発生するのを防がなかった。

・さらに、インド政府はコロナ対策に関するデマの一つのソースにさえなっている。

急速に感染者・死者を増やすインドのコロナ禍は、政治を優先させた首相や政府による人災としての面がぬぐいがたい。

「これほどの群衆はみたことがない」

インドのコロナ拡大が止まらない。世界保健機関(WHO)の統計によると、5月2日現在、累計の感染者数は約1,955万人でこれはアメリカ(約3,200万人)に次ぐ規模だが、その直前の1週間の感染者数は259万人を上回り、この間の死者数(23,231人)とともにダントツの世界一だ。感染者数だけに絞れば、ヨーロッパ大陸(116万人)や南北アメリカ大陸(133万人)を上回るレベルにある。

これについて、インドでは「モディ首相が選挙や政治を優先させて感染をさらに広げた」という批判が噴出している。

インドでは4月、5つの州議会選挙と4つの選挙区で連邦議会補選が行われた。これはすでにコロナ第4波がインドに押し寄せ、感染爆発が起こり始めていた時期だった。

そのため、最大野党インド国民会議などは大規模な選挙集会を自粛するなど、感染対策を意識した対応をとった。

ところが、これに対して与党、インド人民党(BJP)は「選挙活動を行なうことは憲法で認められた権利」と主張し、モディ首相もBJP候補を応援するため各地に出向き、その度に多くの群衆が選挙集会に集まった。

しかも、モディ首相は密を回避するよう呼びかけるどころか、むしろ多くの支持者がマスクもせずに集まるのを歓迎した。4月17日、西ベンガル州の選挙集会でモディ首相は「これほど多くの人が集まったのは今までみたことがない」と称賛している。

これはコロナ禍に直面する国の最高責任者としては、不用意だったといわざるを得ない。実際、モディ首相の言動に対して、インド医師会の副会長は「医療対策より政治を優先させるスーパー拡散者(Super Spreader)」と批判し、SNSでは#Superspreaderが頻繁に用いられるようになった。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story