コラム

インド首相はウイルスの「スーパー拡散者」──人災としてのコロナ蔓延

2021年05月07日(金)14時40分

ちなみに、モディ首相の自画自賛にもかかわらず、西ベンガル州の州議会選挙で与党BJPの候補は敗北した。

ヒンドゥー至上主義の影

スーパー拡散者としてのモディ首相の言動には選挙キャンペーンだけではなく、ヒンドゥーの宗教行事で密の発生を防ごうとしなかったことも含まれる。

インドには「クンブ・メーラ(Kumbh Mela)」と呼ばれる宗教行事があり、今年は4月にヒンドゥーの聖地の一つ、ハリドワールで開催された。クンブ・メーラでは人々が河で沐浴をするが、感染対策なしに数万人がハリドワールの河畔に集まったため、あちこちで密が発生した。その結果、ハリドワールでは4月12日、それまでで最多となる1日1,333人の感染者が発生し、その後も多くの感染者を出し続けたが、クンブ・メーラが規制されることはなかった。

その一方で、モディ政権は「コロナ対策」を名目に、昨年からしばしば国内のムスリムが礼拝所に集まることを禁じてきた。

こうしたアンバランスな方針の背景には、モディ政権のヒンドゥー至上主義がある。モディ政権は「インド人=ヒンドゥー教徒」という図式を強調し、国内の他の宗教、とりわけイスラームに対するヘイトや迫害を事実上黙認してきた。

ムスリムはインド人口の約15%に過ぎず、その集団礼拝を禁じながら、人口の多くを占めるヒンドゥー教徒の宗教イベントを規制しないことは、感染対策を度外視した、BJP支持者以外は誰も喜ばない政治的な決定と言わざるを得ない。

「アーユルヴェーダがコロナに効く」

モディ政権への批判や不満をさらに加熱させているのが、政府から漏れる非科学的なデマだ。

コロナ感染が急拡大するインドでは、ウイルスやワクチンより早くデマが広がっており、そのなかには「酸素ボンベがなければ薬品を霧状に噴霧するネブライザーで代用できる」、「インド人はコロナウイルスに耐性が強い」といったものが含まれる。このうち、ネブライザーに関しては、念のいったことに「ニンニク、シナモン、甘草の根を入れると効く」といったウワサまでSNSで拡散しているという。

もっとも、こうしたデマはインドに限った話ではない。コロナをきっかけに各国ではフェイクニュースが蔓延しており、日本でもトイレットペーパーが店頭から消えたのはそう昔の話ではない。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ次期米大統領、ウォーシュ氏の財務長官起用を

ビジネス

米ギャップ、売上高見通し引き上げ ホリデー商戦好発

ビジネス

気候変動ファンド、1―9月は240億ドルの純流出=

ワールド

米商務長官指名のラトニック氏、中国との関係がやり玉
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story