コラム

インド首相はウイルスの「スーパー拡散者」──人災としてのコロナ蔓延

2021年05月07日(金)14時40分

しかし、インドの場合により深刻なのは、政権からもこういったレベルのデマが漏れてくることだ。

感染爆発が続いていた4月14日、インド政府のコロナ対策の最前線にいるV.K.ポール博士は記者会見で、インドの伝統医学アーユルヴェーダに基づくダイエットサプリChyawanprashや、ハーブやスパイスの煎じ薬Kadhaなどを感染予防として勧めた。

これに対して、インド医師会の前会長が「仰天するような内容で、人々を誤らせるものだ」と批判するなど、即座に多くの医師から嵐のようなブーイングが噴出したことは不思議でない。

コロナ対策の足枷としての政治

科学軽視のレベルで言えば、アメリカのトランプ前大統領やブラジルのボルソナロ大統領と比べてまだマシなのかもしれないが、それでもモディ政権にも同様の傾向はうかがえる。

各国を見渡すと、コロナ感染の拡大には政治的要因が多かれ少なかれあるが、インドの場合はそれがとりわけ鮮明だ。政治とは本来、国家や国民の利益を幅広く実現するはずのものだが、モディ政権の場合にはヒンドゥー至上主義や伝統に傾いた支持者を喜ばせるという狭い意味での政治がコロナ対策の足を引っ張っている。

その意味で、インドの状況は、コロナ禍にあっても国民より支持者最優先になりがちな狭い政治の標本ともいえるだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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