コラム

「南アフリカで白人が大量に殺されている」──外国の分断も煽るトランプ大統領

2018年09月04日(火)17時00分

また、在南アフリカ・アメリカ大使館も、周囲から隔絶された農園で殺人が目立つことは認めながらも、「特定の人種が政治的な理由で特に標的にされている証拠はない」と報告している。

少なくとも異論がある以上、FOXニュースが当事者であるアフリフォーラムの言い分だけを報じることは公正さに欠ける。これは番組制作の公正規範(fairness doctrine)が廃止されたアメリカで、テレビ局の報道がイデオロギー的なものになりやすいことを端的に示す。

現実的判断としての和解

バイアスが強すぎるだけでなく、トランプ政権が横から口を出すことは、ただでさえ微妙なハンドリングが求められる南アフリカの土地改革を、さらに難しくしかねない。
 
白人の土地の補償なしの収用を可能にしようとしている一方、ラマポーザ大統領はそれが「秩序立って行われる」ことが重要だと強調している。つまり、多数の支持を背景に法的根拠を得ても、実際に問答無用で白人の土地を取り上げるわけではない、というのだ。ここに、南アフリカ政府の難しい立場を見出せる。
 
南アフリカでは白人が全てを握り、黒人には全く権利が保障されない人種隔離政策(アパルトヘイト)の終結にともない、1994年に発足した黒人政権のもとで、企業などに黒人の雇用枠が設けられた一方、白人の財産は保護された。黒人が憎しみと数の力にものを言わせて白人の財産を没収すれば、良くも悪くもそれまで経済を切り回していた白人が南アフリカを離れることは目に見えていたからだ(実際、南アフリカの隣国ジンバブエでは、1999年から黒人政権が白人の農地を補償なしで収用し始め、それが同国の経済危機の導火線となった)。

だからこそ、アパルトヘイト終結後、初の黒人大統領に就任したネルソン・マンデラは、白人への憎しみに固まっていた支持者たちに「赦し」を解き続け、希望する白人の土地のみを買い上げの対象とする、あくまで自由意志に基づく農地の再分配システムを導入したのである。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン南部の港で大規模爆発、14人死亡 700人以

ビジネス

アングル:ドバイ「黄金の街」、金価格高騰で宝飾品需

ワールド

アングル:ミャンマー特殊詐欺拠点、衛星通信利用で「

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 9
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story