「南アフリカで白人が大量に殺されている」──外国の分断も煽るトランプ大統領
また、在南アフリカ・アメリカ大使館も、周囲から隔絶された農園で殺人が目立つことは認めながらも、「特定の人種が政治的な理由で特に標的にされている証拠はない」と報告している。
少なくとも異論がある以上、FOXニュースが当事者であるアフリフォーラムの言い分だけを報じることは公正さに欠ける。これは番組制作の公正規範(fairness doctrine)が廃止されたアメリカで、テレビ局の報道がイデオロギー的なものになりやすいことを端的に示す。
現実的判断としての和解
バイアスが強すぎるだけでなく、トランプ政権が横から口を出すことは、ただでさえ微妙なハンドリングが求められる南アフリカの土地改革を、さらに難しくしかねない。
白人の土地の補償なしの収用を可能にしようとしている一方、ラマポーザ大統領はそれが「秩序立って行われる」ことが重要だと強調している。つまり、多数の支持を背景に法的根拠を得ても、実際に問答無用で白人の土地を取り上げるわけではない、というのだ。ここに、南アフリカ政府の難しい立場を見出せる。
南アフリカでは白人が全てを握り、黒人には全く権利が保障されない人種隔離政策(アパルトヘイト)の終結にともない、1994年に発足した黒人政権のもとで、企業などに黒人の雇用枠が設けられた一方、白人の財産は保護された。黒人が憎しみと数の力にものを言わせて白人の財産を没収すれば、良くも悪くもそれまで経済を切り回していた白人が南アフリカを離れることは目に見えていたからだ(実際、南アフリカの隣国ジンバブエでは、1999年から黒人政権が白人の農地を補償なしで収用し始め、それが同国の経済危機の導火線となった)。
だからこそ、アパルトヘイト終結後、初の黒人大統領に就任したネルソン・マンデラは、白人への憎しみに固まっていた支持者たちに「赦し」を解き続け、希望する白人の土地のみを買い上げの対象とする、あくまで自由意志に基づく農地の再分配システムを導入したのである。
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