コラム

「南アフリカで白人が大量に殺されている」──外国の分断も煽るトランプ大統領

2018年09月04日(火)17時00分

2018年7月にラマポーザ大統領は、白人の農地を補償なしに収用するための憲法改正を加速させると発言した。これは今年2月、現状では「公益のために」政府に認められている土地収用の権限を強化するための憲法改正の動議が南アフリカ議会に提出され、241票対83票で可決されたことを受けてのものだった。

これだけみれば、「南アフリカ政府が白人の土地を収奪しようとしている」という批判もあり得る。実際、白人政党は2月の動議に反対し、首都プレトリアなどでは白人団体による「少数者の権利」を求める抗議デモも頻発している。

「ただ白人というだけで」ではない

しかし、その一方で無視できないのは、南アフリカにおける土地保有のいびつさである。
 
この国では19世紀に入植したオランダ系、イギリス系の子孫をはじめとする白人が人口の約9パーセントにすぎないにもかかわらず、耕作可能地の約73パーセントを保有している。植民地時代にルーツをさかのぼる大土地所有制は、南アフリカが世界屈指の格差社会であることの一因であり、同国のジニ係数は0.6を超える驚異的な高さだ。

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つまり、南アフリカ政府が白人の土地収用に関心をもっていることは確かだが、そもそもの土地保有の不公正さを抜きに「白人の財産が奪われる」とだけ強調することは征服した側の既得権のみを認めるもので、あまりに一方的である。少なくとも、南アフリカの土地収用の問題は、「ただ白人というだけで」発生したわけではなく、事実としてまだ収用は行われていない。

付言すれば、フランス革命で貴族や教会の所領が(全てではないが)再分配されたように、旧体制の支配層の土地の再分配は、その良し悪しにかかわらず、欧米世界でも行われてきた。白人同士が革命の中で土地改革を行っても許されるが、植民地主義の遺産を清算するために白人と非白人の間で行われるのは許されないというのであれば、人種差別主義と言われても仕方ない。

白人は黒人より殺されているか

一方、「白人の農園主が大量に殺害されている」という報道に関しては、さらに問題が多い。

南アフリカの白人団体アフリフォーラム(AfriForum)によると、警察などから離れた広大な農園での殺人発生率は10万人中156人にあたり、これは南アフリカ平均の4.5倍にあたる。アフリフォーラムは土地収用に反対し、アメリカでもロビー活動を行なっている。「ホワイト・ジェノサイド」を示唆するFOXニュースの報道は、この働きかけのわずか3カ月後に放送された。

しかし、この数字には批判や疑問もある。南アフリカ警察の統計によると、2015~2016年の殺人発生率は南アフリカ平均で10万人中34.1人だが、南アフリカ警察の統計にはそもそも「農園における人種ごとの殺人」というカテゴリーがない。そのため、南アフリカのシンクタンク、アフリカ・チェックは「白人農園主の殺害」のカウントがほぼ不可能と指摘し、アフリフォーラムのデータの正確性を疑問視する。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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