「南アフリカで白人が大量に殺されている」──外国の分断も煽るトランプ大統領
力があっても振るわないという選択
しかし、自由意志に基づく分配は遅々として進まなかった。そのうえ、政府高官の汚職、インフレの加速、格差の拡大など、さまざまな不満のタネが大きくなるなか、先述の今年2月の南アフリカ議会における白人の農地の無補償収用のための憲法改正の動議は、マルクス主義政党「経済的自由の戦士(EFF)」によって提出された。これに、支持が低迷していた与党ANCも便乗したことで動議は可決された。
こうしてみたとき、白人の農地収用問題が黒人、とりわけ貧困層のフラストレーション解消の手段となっていることは確かで、ここに白人の不満を糾合したトランプ政権との類似性を見出せる。実際、EFFを支持する黒人貧困層からは「アフリカは黒人のものだ」という排他的な主張が堂々と聞かれるようになっている。
とはいえ、ジンバブエの二の舞を避けるために南アフリカ政府は、一方では補償なしの収用を可能にする法改正を進めながらも、もう一方でできるだけ強制的ではなく実行しなければならない、という離れ業を演じる必要に迫られている。
だからこそ、歴史的に因縁の深いイギリス政府だけでなく、アメリカの影響の強い国際通貨基金(IMF)までもが南アフリカの土地改革を支援する方針を打ち出しているにもかかわらず、一方の当事者にだけ(ラマポーザ氏に言わせれば「この国にきたこともないのに」)肩入れするトランプ大統領の発言は、アフリフォーラムなどの白人団体を活気付かせ、事態をより難しくしやすくするものである。
ニクソン政権とフォード政権で国務長官などを歴任した稀代の外交官ヘンリー・キッシンジャーは「外交とは力を制動する技芸である(Diplomacy is the art of restraining power)」と記した。動機づけはさておき、ラマポーザ大統領も、力をもっても力ずくにならない道を探らなければならない点では変わらない。白人であれ黒人であれ、あるいはその他の人種であれ、身びいきに徹する人種差別主義は、創造的チャレンジを阻害する以上の意味をもたないのである。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。他に論文多数。
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