IS「シリア帰り」に厳戒態勢の中国・新疆ウイグル自治区──テロ対策のもとの「監獄国家」
これと並行して、2017年12月にイスラエルメディアは人民解放軍がウイグル人戦闘員の掃討のためシリアに特殊部隊を派遣したと報道。さらに同月から、IS戦闘員の流入が目立つアフガニスタンとの国境付近に中国の基地を建設する協議を両国政府が開始。これらはいずれも、IS流入への中国の警戒を示すものです。
大規模テロは発生するか
ただし、「ISの脅威」にどの程度の現実味があるかは疑問です。
先述のようにISの「落ち武者」は各地に飛散していますが、多くは内戦で混乱する国(アフガンやリビア)か、その制圧が彼らの論理からして意味の大きい土地(ISの領土拡大計画のなかで東南アジア方面の拠点と位置づけられたフィリピンなど)に集中しています。
中国は、人や武器の出入りも規制できないアフガンや、海外からの支援がなければ過激派掃討も難しいフィリピンと異なります。また、ISの領土拡大計画に含まれていたものの、新疆はイスラーム圏の「辺境」に過ぎません。
さらに、新疆はもともと情報の機密性が高く、仮に大規模なテロが発生しても、その現場に海外メディアは近づくことすら困難です。これは、宣伝のために人目につく場所を狙う傾向があるISやアルカイダにとって、標的としての魅力の低さを意味します。
つまり、テロの可能性はあるものの、IS戦闘員が大挙して新疆に押し寄せる事態は考えにくいのです。だとすれば、「監獄国家」とも呼べる新疆の取り締まりは、実際の脅威に不釣り合いなほど厳しいといわざるを得ません(その場合、イスラエルメディアが報じたシリアへの特殊部隊の派遣には、イスラーム圏での中国の「悪評」への懸念の方が大きいとみられる)。
中国経済にとっての新疆
新疆ウイグル自治区での異常に厳しい取り締まりの背景には、中国の国内政治の影響が無視できません。国内の締め付けを強化する習近平体制にとって、たとえ小規模なテロや暴動であっても権威の失墜につながります。
これに加えて重要なことは、この地が中国経済にとって高い重要性をもつことです。中国の天然ガス輸入は年間600億立方メートルにのぼりますが、そのうち346億立方メートルはパイプラインを通じたもの。そのほとんどが中央アジアから新疆に輸入されており、しかもタンカーによるものより早いペースで増加しています。
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