IS「シリア帰り」に厳戒態勢の中国・新疆ウイグル自治区──テロ対策のもとの「監獄国家」
当局の監視は、私生活のほとんど全てに及びます。2017年12月には当局が全てのウイグル人の顔写真、指紋、目の虹彩、DNAまで採集していることが発覚。さらに街中に配置された赤外線カメラで収集された顔認証データや、LANアナライザで集められた通信記録など、最新システムに基づくビッグデータも、この監視体制を支えています。
ハイテクだけでなくローテクの監視も強化されており、当局は「テロや暴動に関連する情報」の提供者に最大500万元(約8500万円)の報奨金を提供。その対象には「違法な宗教活動」まで含まれ、いわば密告を奨励するものといえます。文革時代にもみられた密告は、市民同士の不信感を高め、バラバラにすることで、管理を容易にする効果があります。
監獄と化した新疆
こうして監視が強化される一方、新疆では2017年4月頃から「正しくないイデオロギーの影響を受けた者」を収容し、教化する再教育キャンプの存在が指摘されるようになりました。ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、2018年3月現在で収容者数は約80万人。収容者のほとんどが40歳未満の若者とみられます。
海外に逃れようとするウイグル人も少なくありませんが、最近では移動の制限も強化されています。2017年7月にはウイグル人留学生数十人がエジプトで拘束され、中国に送還されました。
さらに、運よく海外で国籍を変更できたとしても、監視は続きます。フランスでは2018年3月、フランス国籍をもつウイグル人が中国警察から居住地、職場、身分証のコピー、さらに配偶者の身分証のコピーまで提出を求められていることが発覚。多くの場合、新疆の親戚が半ば人質となっている以上、外国籍を取得したウイグル人もこれに応じざるを得ないといいます。
中国vs. IS
深刻な人権侵害をともなう監視体制を、中国政府は「テロ対策」と正当化しています。
実際、2014年3月に昆明で発生した、29人が死亡した襲撃事件など、これまでにも中国国内でウイグル人のテロは発生しています。また、イスラーム過激派に加わる者も少なくなく、各国からIS外国人戦闘員が集まったシリアには、5000人以上のウイグル人過激派がいるとみられます。
こうした背景のもと、2017年2月にウイグル人IS戦闘員が中国政府に「血の河に沈める」とネット上で警告。シリアで追い詰められたISが各地に飛散するなか、この宣戦布告は新疆ウイグル自治区での取り締まりを強化するきっかけになったとみられます。
ウルムチにある最大のモスク(筆者撮影、2008年)
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