コラム

IS「シリア帰り」に厳戒態勢の中国・新疆ウイグル自治区──テロ対策のもとの「監獄国家」

2018年04月05日(木)15時00分

当局の監視は、私生活のほとんど全てに及びます。2017年12月には当局が全てのウイグル人の顔写真、指紋、目の虹彩、DNAまで採集していることが発覚。さらに街中に配置された赤外線カメラで収集された顔認証データや、LANアナライザで集められた通信記録など、最新システムに基づくビッグデータも、この監視体制を支えています。

ハイテクだけでなくローテクの監視も強化されており、当局は「テロや暴動に関連する情報」の提供者に最大500万元(約8500万円)の報奨金を提供。その対象には「違法な宗教活動」まで含まれ、いわば密告を奨励するものといえます。文革時代にもみられた密告は、市民同士の不信感を高め、バラバラにすることで、管理を容易にする効果があります。

監獄と化した新疆

こうして監視が強化される一方、新疆では2017年4月頃から「正しくないイデオロギーの影響を受けた者」を収容し、教化する再教育キャンプの存在が指摘されるようになりました。ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、2018年3月現在で収容者数は約80万人。収容者のほとんどが40歳未満の若者とみられます。

海外に逃れようとするウイグル人も少なくありませんが、最近では移動の制限も強化されています。2017年7月にはウイグル人留学生数十人がエジプトで拘束され、中国に送還されました。

さらに、運よく海外で国籍を変更できたとしても、監視は続きます。フランスでは2018年3月、フランス国籍をもつウイグル人が中国警察から居住地、職場、身分証のコピー、さらに配偶者の身分証のコピーまで提出を求められていることが発覚。多くの場合、新疆の親戚が半ば人質となっている以上、外国籍を取得したウイグル人もこれに応じざるを得ないといいます。

中国vs. IS

深刻な人権侵害をともなう監視体制を、中国政府は「テロ対策」と正当化しています。

実際、2014年3月に昆明で発生した、29人が死亡した襲撃事件など、これまでにも中国国内でウイグル人のテロは発生しています。また、イスラーム過激派に加わる者も少なくなく、各国からIS外国人戦闘員が集まったシリアには、5000人以上のウイグル人過激派がいるとみられます。

こうした背景のもと、2017年2月にウイグル人IS戦闘員が中国政府に「血の河に沈める」とネット上で警告。シリアで追い詰められたISが各地に飛散するなか、この宣戦布告は新疆ウイグル自治区での取り締まりを強化するきっかけになったとみられます。

mutsuji2018040503.jpg
ウルムチにある最大のモスク(筆者撮影、2008年)

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ハンガリー、ICC脱退を表明 ネタニヤフ氏訪問受け

ワールド

ミャンマー地震、死者3000人超える、猛暑と雨で感

ビジネス

サントリーなど日本企業、米関税に対応へ 「インパク

ワールド

韓国、米関税で企業に緊急支援措置策定 米と交渉へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のため…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 9
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story