コラム

年末・年始に過熱するISテロ 「トランプ氏のエルサレム首都認定はISへのプレゼント」

2017年12月31日(日)18時30分

トランプ大統領のエルサレム首都認定を受けて、12月13日に開催されたイスラーム協力機構の会合で、一際大きな声で米国批判を展開してきたのはトルコのエルドアン大統領でした。トルコの視線の先にはスンニ派の大国の座を争うサウジアラビアがあり、エルドアン大統領は「エルサレム問題」を自らの立場を強めるうえで利用しているといえます。

【参考記事】米「エルサレム首都認定」で利益を得る者:トルコ・エルドアン大統領とサダム・フセインの共通性について

これと連動して、イスラーム世界で存在感を強めてきたのが、「エルサレム問題」の当事者でもあるパレスチナのイスラーム組織ハマスです。「エルサレム問題」が発生してからはパレスチナ人に抗議活動を呼びかけるなど、ハマスは認知度を引き上げていますパレスチナ自治政府を握り、「パレスチナの代表」と国際的に認知されているファタハと2017年10月に積年の内部対立を解消する合意をしたことも、ハマスの国際的立場を改善させる一因となりました。

もともとエルドアン大統領はハマスを支援してきましたが、「エルサレム問題」をきっかけにトルコ‐ハマス同盟がイスラーム世界における世論に大きな影響力を持ち始めているのです。

サウジへの配慮

この状況は、「エルサレム問題」をめぐるISの沈黙の背景となっています。

トルコ‐ハマス同盟の影響力が増すのに対して、本来イスラームの盟主であるはずのサウジアラビアは、先述した米国との関係から、トランプ批判のトーンを抑えています。のみならず、サウジやスンニ派諸国(カタールを除く)は米国とともに、ISやアルカイダだけでなくハマスも「テロ組織」として取り締まりの対象にしています。ハマスがトルコだけでなく、サウジにとって最大のライバルであるイランにも接近していることが、これに拍車をかけています。

しかし、その背景にかかわらず、「エルサレム問題」へのサウジの対応は、厳格なイスラーム主義者だけでなく、一般ムスリムからの失望を招きかねないものといえます。ところで、先述のように、ISはこれまで以上にスンニ派諸国からの支援を当てにせざるを得ない状況にあります。この状況下、ISが「スポンサー(あるいはその候補)に都合の悪いこと」に口をつぐんだとしても不思議ではありません

ISとハマスの確執

これに加えて、トルコと結びつき、「エルサレム問題」を機にイスラーム世界での認知度を引き上げているハマスは、ISとライバル関係にあります

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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