年末・年始に過熱するISテロ 「トランプ氏のエルサレム首都認定はISへのプレゼント」
ところが、ISは海外からの支援も失いつつあります。ISはもともと、アルカイダなどとともに、王族を含むスンニ派諸国の官民から資金を調達していました。しかし、2015年に即位したムハンマド皇太子のもと、サウジ政府は従来のISやアルカイダとの関係を見直す方針に転じ、むしろ米国とともにこれを積極的に取り締まり始めています。2017年6月にサウジがカタールと断交した一つの理由は、カタールがISなどスンニ派過激派組織への支援を続けていたことでした。
【参考記事】サウジアラビアの対カタール断交:イラン包囲網の「本気度」
この環境のもと、ISは様々な違法行為で資金を調達しているとみられるだけでなく、ビットコイン取引にも手を出しているといわれます。
もともとISは、アルカイダなどとのライバル抗争を勝ち残るために、目立つテロ事件を引き起こして資金や人材を集めてきました。しかし、追い詰められ、なりふり構わなくなっているISにとって、宣伝材料として「派手なテロ行為」はこれまで以上に必要になっているといえるでしょう。
「エルサレム問題」への沈黙
これを加速させているのは、トランプ大統領によるエルサレム首都認定です。ただし、それはISが「エルサレム問題」を、テロ活動を正当化する理由に利用している、という意味ではありません。
エルサレムはイスラームにとっても聖地であり、ユダヤ人国家イスラエルとの対立のシンボルでもあります。そのため、トランプ氏によるエルサレム首都認定の直後、それがテロ組織を触発するという懸念を抱く人は少なくありませんでした。例えば、マルタの穏健派イスラーム指導者サディ師は12月7日、トランプ大統領の決定が「ISISへの素晴らしい贈り物になる」と警告しています。
ところが、オール・イスラーム的な課題であるはずの「エルサレム問題」に関して、ISは奇妙なほど静かです。ISの宣伝機関であるAmaqニュースはこの件についてほとんど伝えていません。冒頭に示したタイムズスクエアの爆破予告では、確かに「エルサレム問題」が理由にあげられましたが、これはあくまで「支持者」によるもので、ISは肯定も否定もしていません。
「エルサレム問題」の主役
イスラーム世界内部での「宣伝」に追われているはずのISが「エルサレム問題」にほとんど言及しないままにテロ活動を続けることは、一見奇妙に映ります。しかし、「エルサレム問題」をめぐるイスラーム世界の内部分裂と力関係の変化を考えると、これは不思議でもありません。
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