コラム

年末・年始に過熱するISテロ 「トランプ氏のエルサレム首都認定はISへのプレゼント」

2017年12月31日(日)18時30分

ところが、ISは海外からの支援も失いつつあります。ISはもともと、アルカイダなどとともに、王族を含むスンニ派諸国の官民から資金を調達していました。しかし、2015年に即位したムハンマド皇太子のもと、サウジ政府は従来のISやアルカイダとの関係を見直す方針に転じ、むしろ米国とともにこれを積極的に取り締まり始めています。2017年6月にサウジがカタールと断交した一つの理由は、カタールがISなどスンニ派過激派組織への支援を続けていたことでした。

【参考記事】サウジアラビアの対カタール断交:イラン包囲網の「本気度」
 
この環境のもと、ISは様々な違法行為で資金を調達しているとみられるだけでなく、ビットコイン取引にも手を出しているといわれます

もともとISは、アルカイダなどとのライバル抗争を勝ち残るために、目立つテロ事件を引き起こして資金や人材を集めてきました。しかし、追い詰められ、なりふり構わなくなっているISにとって、宣伝材料として「派手なテロ行為」はこれまで以上に必要になっているといえるでしょう。

「エルサレム問題」への沈黙

これを加速させているのは、トランプ大統領によるエルサレム首都認定です。ただし、それはISが「エルサレム問題」を、テロ活動を正当化する理由に利用している、という意味ではありません

エルサレムはイスラームにとっても聖地であり、ユダヤ人国家イスラエルとの対立のシンボルでもあります。そのため、トランプ氏によるエルサレム首都認定の直後、それがテロ組織を触発するという懸念を抱く人は少なくありませんでした。例えば、マルタの穏健派イスラーム指導者サディ師は12月7日、トランプ大統領の決定が「ISISへの素晴らしい贈り物になる」と警告しています。

ところが、オール・イスラーム的な課題であるはずの「エルサレム問題」に関して、ISは奇妙なほど静かです。ISの宣伝機関であるAmaqニュースはこの件についてほとんど伝えていません。冒頭に示したタイムズスクエアの爆破予告では、確かに「エルサレム問題」が理由にあげられましたが、これはあくまで「支持者」によるもので、ISは肯定も否定もしていません。

「エルサレム問題」の主役

イスラーム世界内部での「宣伝」に追われているはずのISが「エルサレム問題」にほとんど言及しないままにテロ活動を続けることは、一見奇妙に映ります。しかし、「エルサレム問題」をめぐるイスラーム世界の内部分裂と力関係の変化を考えると、これは不思議でもありません

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story