コラム

年末・年始に過熱するISテロ 「トランプ氏のエルサレム首都認定はISへのプレゼント」

2017年12月31日(日)18時30分

ISのテロに見舞われたカイロ近郊ヘルワンの教会と警戒する治安部隊(2017年12月29日) Amr Abdallah Dalsh-REUTERS

クリスマス前後からISによるテロが世界各地で頻発しており、ISが犯行声明を出した主なものだけでも以下があげられます。

12月11日 ニューヨーク、タイムズスクエアを標的にしたIS支持者によるテロ予告(ISの公式発表なし)

12月17日 パキスタン、クエッタでキリスト教会を襲撃(5名死亡)

12月25日 アフガニスタン、カブールで諜報機関を狙った自爆テロ(5名死亡)

12月27日 ロシア、サンクトペテルブルクでスーパーマーケット爆破

12月28日 アフガニスタン、カブールでシーア派集会所などを爆破(41名死亡)

12月29日 エジプト、カイロのキリスト教会を襲撃(11名死亡)

これらを受けて、年末のカウントダウンが行われるタイムズスクエアでは警備が強化されており、年末・年始にイベントが予定されている他の国でも警戒が高まっています。

キリスト教徒にとって最大の行事であるクリスマスがISの標的になることは不思議ではないものの、そのテロ事件の発生が急激に増えていることも確かです。そこには12月6日の米国トランプ大統領による「エルサレム首都認定」だけでなく、その後のイスラーム世界におけるライバル抗争の影響を見出せます

【参考記事】「米国大使館のエルサレム移転」がふりまく火種:トランプ流「一人マッチポンプ」のゆくえ

グローバル・ジハードの飛散

2014年にイラクとシリアにまたがる領域で「建国」を宣言したISは、2017年に大きな節目を迎えました。

 イラクでは6月にイラク最大の拠点モスル、10月に北部ハウィジャを、それぞれ米国を中心とする有志連合に支援されるイラク軍が制圧。一方、シリアではロシア軍によって支援されるシリア軍が、8月に中部ホムス、10月にはISが「首都」と位置づけていたラッカ、そして11月には同国におけるIS最後の拠点とみられた東部デリゾールを解放しました。

もともとISは「グローバル・ジハード」を掲げるアルカイダの方針に飽き足らないメンバーが分離し、「イスラーム国家樹立」を大方針にしてきました。しかし、シリアとイラクでの征服地が減少するにつれ、両国を追われた「落ち武者」は各地に飛散し、グローバル・ジハードの色彩を強めていきました。その結果、例えばフィリピンでは2017年5月にISに忠誠を誓う現地勢力「マウテ」などがマウテ一帯を占拠し、フィリピン軍との内戦に突入しています。

【参考記事】なぜIS「落ち武者」はフィリピン・ミンダナオ島を目指すか:グローバル・テロを受け入れるローカルな土壌

ISの困窮

各地でテロ活動を活発化させることは、ISにとって「資金や人材を調達する」という意味もあります。シリアやイラクを追われたことで、ISは重要な資金源であった油田を失いました。そのため、ISはこれまで以上に、支持者からの支援をあてにしなければならなくなっています

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米債務持続性、金融安定への最大リスク インフレ懸念

ビジネス

米国株式市場=続伸、堅調な経済指標受け ギャップが

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米景気好調で ビットコイン

ワールド

中国のハッカー、米国との衝突に備える=米サイバー当
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story