年末・年始に過熱するISテロ 「トランプ氏のエルサレム首都認定はISへのプレゼント」
2017年6月16日にエルサレム旧市街地で発生した警官殺害事件で、ISは犯行声明を出しました。これはISによる初めてのイスラエル攻撃の声明でしたが、同様に犯行声明を出していたハマスはこれを「事態を混乱させるもの」と強く批判。イスラエル当局もISの関与を示す証拠がないと結論付けています。つまり、ISは「エルサレムでのテロ」という宣伝材料をハマスから横取りしようとしたといえます。
その直後の6月26日早朝、パレスチナのガザ地区からイスラエルにロケット攻撃が行われ、ISに忠誠を誓うAhfad al-Sahabaが犯行声明を出しました。しかし、これに対して、イスラエル軍はガザ地区からの攻撃の責任をハマスに帰し、翌27日には報復の空爆を実施。この一件で、ハマスは間接的にISによって損害を受けたことになります。
これらの経緯から、ISにとってハマスは全く相いれないものなのです。そのハマスが「エルサレム問題の当事者」としてイスラーム世界の内外で脚光を浴びるなか、ISがこれにほとんど触れないことは、いわば当然といえます。
大義なきテロに吸い込まれる者
ただし、イスラーム世界でこれ以上ない宣伝効果を狙える「エルサレム問題」で公式の発言を控えざるを得ない一方、ISの懐事情がジリ貧であることは変わりません。そのなかでスポンサーの関心を呼び、資金や人材を集めようとすれば、これまで以上に「派手に」テロ活動を行うしかISの手段はなくなってきます。
こうしてみたとき、トランプ氏のエルサレム首都認定はトルコやハマスにとってプレゼントになったとはいえるものの、ISは直接の「恩恵」に乏しいといえます。言い換えると、「エルサレム問題」を直接利用できないISは、この問題によって高まるイスラーム世界の反米感情に便乗する形でテロを頻発させているのです。その意味で、もはや大義すらない宣伝活動が過熱しているとさえいえます。
そのテロ活動そのものに加えて、さらに問題なのは、「大義すらない宣伝活動」に吸い込まれる者が絶えないことです。
中国の新疆ウイグル自治区からは、共産党支配に起因する抑圧や格差に直面する若者の数多くが、ISに勧誘され、民族的に近いトルコを経由してシリアに渡ったとみられます。現地の社会活動家はAP通信のインタビューのなかで「我々は若者の過激化を防ぐ戦いに敗れつつある。我々が彼らに、世界には希望や人権があると確信させられないからだ」と応えています。これは一例に過ぎません。
先述のように、2017年はイラクとシリアにおけるIS掃討作戦に一定の目途が立った年でした。しかし、各地に抑圧と格差が広がるなか、たとえ大義すら怪しくなっているとはいえ、ISの活動が収まることはありません。これらの社会問題への取り組みが進まなければ、ISの脅威は2018年以降も長く続くとみられるのです。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
「核兵器を使えばガザ戦争はすぐ終わる」は正しいか? 大戦末期の日本とガザが違う4つの理由 2024.08.15
パリ五輪と米大統領選の影で「ウ中接近」が進む理由 2024.07.30
フランス発ユーロ危機はあるか──右翼と左翼の間で沈没する「エリート大統領」マクロン 2024.07.10