コラム

日銀のマイナス金利修正は近づきつつある

2024年01月24日(水)16時30分
日銀、植田総裁

日銀内部では、既にマイナス金利解除が具体的に検討されているのかもしれない...... REUTERS/Issei Kato

<24年度賃上げ率が昨年よりも高まり、2%インフレの持続性がより高まったと判断すれば、日銀がマイナス金利を修正する可能性は高いが......>

日本銀行は22~23日の金融政策決定会合で、予想通り現行の政策を据え置いた。元々今回の会合は、政策変更がない「無風」とみなされていた。

ただ、物価の先行きに関して「見通しが実現する確度は、引き続き、少しずつ高まっている」との文言が、展望レポートで新たに追加された。ほぼ同様のフレーズを、植田総裁が講演などで言及しているので目新しい訳ではないが、この認識が日銀政策委員の中で共通認識になりつつある、ということだろう。この点は、マイナス金利解除が近づいているとの意味あるメッセージと位置付けられる。


日銀のマイナス金利政策と春闘賃上げの影響

なお、植田総裁の記者会見中に為替市場で円高が進む場面があったが、総裁からは慎重な言い回しが目立ち、政策変更の時期などについて踏み込んだ発言はみられなかった。また、記者会見の中で、(金融緩和の修正に関連して)「不連続性が発生するような政策運営は避けられる」との総裁の発言が注目されたが、日銀内部では、既にマイナス金利解除などが具体的に検討されているのかもしれない。

23年度の春闘賃上げ率はほぼ30年ぶりの高い伸び(3.6%)だったが、24年度は4%付近まで高まることが、4月の決定会合時点までに明らかになるとみられる。賃上げ率が昨年よりも高まり、2%インフレの持続性がより高まったと判断すれば、日銀がマイナス金利を修正する可能性は70%程度と筆者は推察している。

1990年代前半以来の賃上げが2年連続で続いているとすれば、これは、デフレに慣れていた企業の価格設定行動や賃金に対する考えが変わりつつある、と評価できる。デフレ時代に選好されていた現預金より、ヒトの価値がより高まっていると認識が広がり、多くの企業は賃上げに前向きになる。このため、景気後退をもたらすショックが起きても、1990年代後半から2000年代のようなデフレに逆戻りする可能性は低下するだろう。この点は議論が分かれるかもしれないが、植田総裁を中心とした日銀執行部は、今後こうした判断を下すのではないか。

急ピッチな株高でも「日本経済の正常化」とまでは言えない

ところで、2023年に大幅高となった日本の株式市場だが、24年初も急ピッチな株高が続き、1980年代のバブル期の最高値が射程圏に入りつつある。過去30年の経済停滞から脱して経済復活を果たしつつあるとのナラティブ(物語)が、海外投資家の間で改めて意識されているとみられる。10年に渡り金融緩和を粘り強く続けた黒田日銀の政策を、植田日銀が多くを引き継いだことで、一連の金融緩和の成果がようやく浸透したと位置付けられる。

株価が最高値まで近づき、更に日銀がマイナス金利修正に動けば、「日本経済が復活しつつある」などと、一段と前向きな見方が強まるかもしれない。もっとも、株価がバブル期の水準に戻るだけでは、「日本経済の正常化」とまで言えないだろう。「バブル期以来の株高」といえば聞こえはいいが、バブル崩壊後の1990年代が異常な株安であって、稀にみるデフレを伴う長期停滞局面が、時間をかけて解消されつつあるというだけに過ぎない。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書が2025年1月9日発売。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story