コラム

為替介入再開の可能性が高まる~2022年の再来か~

2023年10月04日(水)15時49分

金融緩和を続けながらの円買い介入の効果は限られるが...... REUTERS/Issei Kato

<10月3日の夜に、ドル円が1ドル150円を超えたタイミングで、147円台まで大きく動く場面がみられた。為替介入が実際に行われたかは不明だが、当局は為替介入を否定していない。今後の日本経済に何が起きるのか......>

7月から米欧での長期金利上昇を背景に、為替市場では円安ドル高が続いている。10月3日には一時1ドル150円の大台まで円安が進んだが、2022年9月、10月に1ドル145~150円で為替介入が行われたことが意識され、財政当局からの為替市場に関する発言への注目も強まっている。

ドル円1ドル150円を超え、為替介入の可能性

こうした中で、10月3日の夜に、ドル円が1ドル150円を超えたタイミングで、147円台まで大きく動く場面がみられた。為替介入が実際に行われたかは不明だが、当局は為替介入を否定していない。介入が行われたかもしれないし、介入に備えて何等かのアクションがとられ始めたとみられる。

1ドル150円台に入り円安が進むまで、為替介入は行われないのではないかと筆者は想定していた。年初から30円近く円安になった22年と比べて、23年年初からの円安は20円程度でペースはやや緩やかである。また、23年の7-9月に進んだドル高円安は、米国の長期金利上昇でほぼ説明できる。

米国の長期金利上昇についての見方は様々あるが、米経済が失速する可能性が低下したことが主たる要因だろう。政策金利が5.5%まで引き上げられたことに遅れて、インフレを抑制したいFRBの思惑どおりに長期金利が遅れて上昇していると言え、これは米経済の底堅さを反映している。また、緩やかな円安は日本株高を支えるという意味でも、許容するメリットがある。

150円の大台と岸田政権の経済政策

筆者はこのように考えていたのだが、当局はやや異なる見方を持っている可能性が高まった。介入の判断にあたり1ドル150円の水準は重視しないとしているが、150円の大台は「過度な変動」に該当すると当局は判断したのかもしれない。また、岸田政権が、物価高対策として経済政策の策定を進める中で、これに沿った「政治的な対応」が採られたということだろうか。

今後、当局から継続的な円安対応の行動が予想される。ただ、「為替介入がなければ円安は止まらない」との見方があるようだが、金融緩和を続けながらの円買い介入の効果は限られ、円買い介入だけで円安基調を変える可能性は高くないだろう。円安のペースを短期的に緩やかにすることが、当局としてできる対応になるのではないか。

金融政策を伴わない通貨当局の為替介入は、円安のトレンドを変える可能性は低い。ただ、介入を含めたアクションが始まったことは、事後的にみれば、ドル高円安が短期的な行き過ぎの領域に入りつつあることを示唆している可能性がある。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書が2025年1月9日発売。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック上昇、トランプ関税

ワールド

USTR、一部の国に対する一律関税案策定 20%下

ビジネス

米自動車販売、第1四半期は増加 トランプ関税控えS

ビジネス

NY外為市場=円が上昇、米「相互関税」への警戒で安
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story