コラム

岸田内閣の支持率が低くても、日本株が好調な理由

2023年09月20日(水)16時02分

岸田政権の低支持率とは裏腹に、日本株は好調...... REUTERS/Issei Kato

<岸田政権の内閣改造を経て、支持率反転は見込めそうもない。岸田政権への支持率が低下が続いても日本株は上昇しているが、その背景を探りつつ、日本経済の今後を展望する......>

岸田政権は、9月13日に内閣改造を行った。いくつかの大臣や主要官邸メンバーの交代があったが、主要な経済官庁では閣僚の交代はなく、経済政策についてはこれまでの対応が概ね続くことが確認された。

今回の内閣改造は、世論の支持率上昇を狙った政治対応とされている。ただ、直後の世論調査をみると、支持率が上昇(朝日新聞など)、支持率が変わらず(読売新聞など)、支持率が低下(産経新聞)と、まちまちの結果となっている。

岸田首相が、本気で支持率上昇を目指したのか筆者は知る由もないが、今回の人事をうけて、6月から低下している内閣支持率は当面変わらなさそうである。民間人登用など大胆な人事もなく、女性閣僚の数が増えたことがやや目立つ程度で、一般有権者の岸田政権への見方も変わらないということか。

こうした中で、内閣支持率の反転が見込めないので早期の解散総選挙の可能性が低下した、との見方が散見される。ただ、支持率が低下しているといっても、最大野党の立憲民主党の支持率も低調なままで、多くの有権者にとって自民党に代わる選択肢が限られるのが実情だろう。早期解散を含めて今後の政治展開については、幅広いシナリオが想定できると筆者は考えている。

日本の株式市場の動向

一方、日本の株式市場では、内閣支持率などの政治動向はほとんど材料になっていない。通常、総選挙期間中は日本株が上昇し易いアノマリーが意識されるのだが、今回の内閣改造や政治日程に対する関心はかなり低かったようにみえる。

というのも、岸田政権の支持率が低下する中にあって、2023年の日本株(TOPIX)のパフォーマンスは、9月15日時点で年初来約+28%もの大幅な株高となっている。世界的な株式市場の上昇が日本の株高を支えているが、米国株リターン(S&P500、年初来+16%)を大幅に上回るなど、今年の日本株は主要国の中で勝ち組となっている。

取引所が低PBRの改善を明示したこと、新NISA制度の開始、などいくつかの要因が日本株高を後押ししているかもしれないが、これらは内閣によるリーダーシップで実現したとまでは言い難いだろう。岸田政権の経済政策は分かりづらいが、「経済成長を損なう」政策はこれまで採用されていないため、投資家の日本株への一定の安心感をもたらしているとは言えそうである。

円安の影響とその背景

株高が続く一方で、2022年以降の食料品などの価格上昇、それに影響する円安に対して、一般世論は不満を持っていると報じられている。ただ、実際には、円安が長引いていることが、株高を後押しする大きな要因になっている。円安の長期化が、経済成長と企業業績を底上げする経路は明確である。 昨年円安が進んだ時に「円安でも日本株は上がらなくなった」など言われた時期もあったが、円安が進むと日米相対株価(TOPIX/S&P500)が上昇するという関係は2023年も続いている。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書が2025年1月9日発売。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

カナダ・メキシコ首脳が電話会談、米貿易措置への対抗

ワールド

米政権、軍事装備品の輸出規制緩和を計画=情報筋

ワールド

ゼレンスキー氏、4日に多国間協議 平和維持部隊派遣

ビジネス

米ISM製造業景気指数、3月は50割り込む 関税受
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story