米国のインフレ上昇と悪い円安論の正体
岸田政権下で日本経済は再び長期停滞期に戻るのか...... Yoshikazu Tsuno/REUTERS
<本来であれば米英で現在起きているインフレ上昇は、金融財政政策をしっかり行えば日本のデフレは克服することができる、ことを示す事例だが......>
2021年まで3年連続で大きく上昇していた米国の株式市場は、2022年最初の取引日こそ最高値を更新したが、その後に急落した。S&P500指数は1月24日のザラ場において、最高値から約12%下落しており、米国株市場の様相は大きく変わった。米国株の急落を受けて、日経平均株価は27日には2020年12月以来の最安値である26000円台まで大きく下落している。
FRBが急ピッチに引き締め政策を行う可能性
FRB(米連邦準備理事会)が利上げを早期に開始する姿勢を昨年末から強く打ち出していることが、米日の株価下落を引き起こしたとみられる。そして、FRBの方針転換の背景には、バイデン政権からのインフレ沈静化要求に応えたことがあろう。政治的にFRBが政策転換を行うことで、2022年は金融財政政策が双方ともに引き締め方向に作用する。
インフレ抑制のための政策対応が必要だが、それが成功するかどうかが問題である。コロナ後に起きた米国のインフレ率の上昇を、今後金融政策によって適度に調整するのは難易度が高く、引き締め政策が結果的に行き過ぎると筆者は予想している。特に政治的な要請に基づき行われている急ピッチな引き締めは、判断ミスを引き起こす可能性が高いだろう。
コロナ後に中銀が株式市場など金融市場に供給していたマネーが逆流することになるが、これは経済活動にもブレーキをかける。そして、改善していた米国企業業績が悪化に転じると予想される。このため、昨年12月の時点で、米国株の先行きに関して筆者は慎重な見方を強めていた。
1月26日に結果が公表されたFOMC(連邦公開市場委員会)では、「利上げは近い時期に適切になる」と、事実上の次回3月FOMCでの「利上げ予告」が行われた。政策金利とともに引き締めの手段であるバランスシート政策については、利上げ後にバランスシート縮小開始を検討する方針が正式に示された。一方で、利上げやバランスシート縮小のペースについて、パウエル議長は具体的に言及しなかったが、今後の経済、インフレ情勢を踏まえて操作していくということである。
パウエル議長の発言を含めて、FOMCで示された声明文などは総じて予想通りであり、筆者にとって新たな情報は少なかった。ただ、FRBが急ピッチに引き締め政策を行う可能性が、相当程度あり得ることが改めて確認され、FRBのハト派転換を期待していた市場関係者の期待が裏切られた、ということかもしれない。
なお、パウエル議長を含めたFOMCメンバーは、現状年4回程度の利上げを想定しているとみられる。ただ、FRBが想定通りに利上げを行うかどうかは経済、インフレ情勢次第である。3月FOMCで予告通り利上げを行った後に、米国経済の成長率の減速などを受けてFRBは再度方針を転換して利上げ政策を一旦ストップするとみられ、2022年の利上げ回数は2回程度にとどまると筆者は予想している。
日本は、低インフレの状態から抜け出せていない
コロナからの経済復調局面の米国では、1980年代以来の高い水準までインフレ率が大きく上昇した。他の先進国でも、英国、ニュージーランド、カナダでもインフレ率上昇が目立つが、これらの国においてコロナ対応で繰り出された金融財政政策の景気刺激効果がかなり大きかったことが一因である。
また、1990年代後半から先進国ではインフレが政策当局者にとって問題にならずに、インフレを克服したとの見方が広がっていたが、それが妥当ではなかったことを示している。つまり、適度な大きさの財政金融政策を行えばインフレが起きる、というシンプルな命題が妥当ということだろう。
一方で、日本においては、他の先進国とは異なりインフレ上昇は限定的なままである。携帯電話通信料引き下げの分などを除いた、実力ベースのインフレ率はまだ1%にすら達してない。日本は、多くの先進国とは異なり、コロナ抑制が最重視される中で、十分な規模の金融財政政策が実現せず、低インフレの状態から抜け出せていないということである
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