コラム

コロナ克服と経済正常化──米国に大きく遅れる日本

2021年04月21日(水)18時10分

新型コロナ感染者は桁違いに少なかった日本だったが......  REUTERS/Tom Brenner

<感染症を克服して経済正常化に至る局面に入りつつあるアメリカ、いっぽう日本での対応の遅れや不手際が顕著となっている...... >

3月25日のコラムでは、(1)2兆ドル規模の米国救済計画によって拡張財政政策が強化、(2)政策発動を後押しした要因として一流の経済学者の間で政府債務残高が財政政策の制約にならないとの見解が米国で主流になりつつある、などを紹介した。

バイデン政権は、3月31日に米国雇用計画を発表

その後、ホワイトハウスは米国雇用計画と称した財政プランを3月31日に発表した。新型コロナ対応と経済復調を後押しするための米国救済計画などと異なる性格を持つ財政政策である。具体的には、バイデン政権が2期続くことを想定してか8年間に及ぶ、道路などのインフラ整備や税優遇を通じた環境投資後押しなどの広範囲な歳出拡大とともに、これらの財源として法人増税や外国で稼いだ企業利益に対する課税強化が一体となったパッケージである。

あくまでバイデン政権による草案であり、議会の審議によってメニューが変わる可能性が高い。そもそも、民主党政権が8年間続くかは当然今後の政治情勢次第なのだから、将来にわたりこのプランがどの程度実現するかはかなり不透明である。

所得再配分を強化しつつもマクロ安定化

ただ今回、財源である増税を15年をかけて行う方針を、バイデン政権が明示したことは重要だと筆者は考えている。今後数年に亘り、歳出拡大を先行させる拡張的な財政政策を継続するバイデン政権の姿勢がはっきりした。再分配や環境問題を重視する政治勢力に押されて早期の大幅増税が実現するリスクを筆者は警戒していたが、中道派の政権の主要メンバーはそうした考えには与しなかった。政治任用されたイエレン財務長官などによる、経済成長重視の考えが重視されたのだろう。

更に、報道によれば、ホワイトハウスは、米国雇用計画に続き「米国家族計画」と称される追加プランを計画している模様である。バイデン政権の公約に沿って、富裕層への所得増税などを財源として、子育て世代への支援など社会保障拡充を目指すプランとみられる。現時点では、プランの詳細が不明なので評価はできないが、増税を長期間かけて実現しつつも社会保障関連の歳出拡大を行う姿勢は保たれるとみられる。この想定が正しければ、今後経済政策の失敗がもたらす経済的なリスクは一段と低下するだろう。

米国雇用計画と米国家族計画は、低所得者への所得支援や医療拡充そして環境関連投資に政府資金を充てることを通じて、所得再分配を実現させる性格が強い対応である。トランプ政権では重視されなかった、所得格差是正を目指す民主党政権の姿勢が反映されている。トランプ政権に強いシンパシーを抱いている、あるいは「小さな政府」を評価する論者にとって、増税を掲げるバイデン政権は批判の対象になるだろう。市場メカニズムを重視する市場関係者もそうした見方を持っている人は少なくない。

ただ、バイデン政権は、再配分を強化しつつも、先に述べたように安定的にパイを拡大させるマクロ安定化政策を重視している。そして、先進国の中でも最も所得格差が拡大している米国では、消費性向が高い低所得者の所得を高めるマクロ経済政策の効果が大きいとの議論が行われている。

所得格差と経済成長率の関係は実際には曖昧ではあるが、米国では再分配強化がGDPを高める経路は大きいと筆者自身は考えている。こうした期待もあるため、バイデン政権が始動してから米国の株式市場は最高値更新となっており、穏健な民主党の経済政策が金融市場において好意的に評価されているのだろう。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書が2025年1月9日発売。

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