コラム

コロナ克服と経済正常化──米国に大きく遅れる日本

2021年04月21日(水)18時10分

ワクチンによってコロナ感染症へのリスクが低下

米国で株高が続いているもう一つの大きな要因は、ワクチン接種が進み新型コロナのリスクが大きく低下していることである。バイデン政権が当初計画していたペースよりも早いペースでワクチン接種が進んでおり、4月19日時点で人口対比での接種率は約40%にまで達している。ジョンソン&ジョンソンによるワクチン接種は一時停止されたが、ファイザーなど他のワクチンの供給で十分カバーできるとみられる。

ワクチンによってコロナ感染症へのリスクが、実際にどの程度低下するのかは専門外の筆者には分からない。ただ、19日のアメリカ疾病予防管理センター(CDC)の会見によれば、ワクチン接種後に新型コロナに罹患したと現時点で把握されている人の割合は0.007%とされている。これらを踏まえると、足元のワクチン普及によって、夏場にかけて経済活動の正常化がかなり実現する可能性が高い。

新型コロナ感染者が桁違いに少なかった日本だったが......

一方、日本ではワクチン接種が米欧などの先進国との対比でかなり遅れている。もちろん、日本では新型コロナ感染者が桁違いに少なかったので単純な比較は難しい。そもそも、先進国なら十分可能だったと思われる最先端技術によるワクチンを自国で開発できなかったことが痛恨だが、これは長年に渡る保守的な経済官僚による財政緊縮のツケを危機に直面した国民が払っているのだと筆者は考えている。

更に、米欧対比ではかなり緩やかなペースでワクチン接種を進めるだけであるのに、多くの混乱が自治体などの現場で起きていると報じられている。こうした混乱がなぜ起きているのか、筆者を含めた多くの国民が疑問を持っているだろうが、これは公衆衛生政策の対応がしっかり実現していないということである。

まず、公的な政策を徹底するためには、危機に対応した柔軟かつ大規模な歳出拡大を行うことが大前提になるが、それが依然不十分なのだろう。更に、非常時の対応として、政治権限によって病院そして行政組織を広範囲に動かす必要がある。これらの対応を、菅政権は充分にできていないが、(1)官邸のリーダーシップが足りない、(2)緊縮思想に陥った官僚組織の機能不全、の双方が原因だと筆者は考えている。

ワクチン普及に手間取っている間に、新型コロナ感染者が再び増え始めている。2021年初までに病床をほとんど増やさなかったため、感染第3波で経済活動が再び制限されたが、直ぐに感染第4波が発生して再び大阪などで医療体制が逼迫するに至った。今週、大阪は緊急事態宣言を要請して、東京などの自治体も追随する見通しである。

新型コロナ感染拡大が経済活動を阻害するのだから、感染状況によって柔軟に政府が対応する必要があり、移動・行動制限に踏み出した政府の対応はやむを得ない。ただ、そもそもコロナ感染者の数が圧倒的に少ない先進国の日本において、医療体制強化などの公衆衛生政策を徹底することは、経済正常化を進めるために最も効果的な対応である。これが未だに十分実現していないことが、経済正常化の足枷になっている。

そして、日本株への評価は4月に入って大きく凋落

新型コロナがもたらした人的被害については、日本よりも米国などで圧倒的に大きな被害がでた。ただ、感染症を克服して経済正常化に至る局面に入る中で、先に述べたように拡張的な財政政策を強化する米国では経済正常化が順調に進む一方で、日本での対応の遅れや不手際が顕著となっている。

この構図が米日の株式市場の値動きにも反映されつつある。S&P500指数は、4月になっても最高値更新が続いているが、TOPIXは3月中旬の高値から4月はジリジリと下げている。日米相対株価指数は2020年10月以来の水準まで低下しており、3月までは有望な投資対象とみられた日本株への評価は4月に入って大きく凋落している。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊は『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

UAE、イスラエルがヨルダン川西岸併合なら外交関係

ワールド

シリア担当の米外交官が突然解任、クルド系武装組織巡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story