コラム

「うんこ丸太」の歌を聞けなかったカタルーニャ独立派たち

2018年01月16日(火)12時17分

カガ・ティオ(うんこ丸太)。12月初旬から食べ物を与えて毛布を掛けてあげると、クリスマスには毛布の下にお菓子や小さなプレゼントを“排便”してくれる Photograph by Toru Morimoto

<12月の地方選で再び過半数を得たにもかかわらず、独立派リーダーたちは投獄・亡命状態のまま。家族でクリスマスを過ごすこともできなかった。今週、緊迫のカタルーニャ情勢は新たな展開を迎える>

日本で『うんこ漢字ドリル』が大ヒットする何世紀も前から、カタルーニャでは「うんこ丸太」が愛されている。

クリスマスをカタルーニャ伝統料理のアスクデーリィア(ソーセージ、キャベツ、人参、ひよこ豆などで出汁を取り、カタツムリの殻のような形状のパスタを入れたスープ)で祝った後、子供たちは木の棒を持ってカガ・ティオ(うんこ丸太)と呼ばれる丸太に股がり、カタルーニャ語で歌う。

食べ物を先祖にお供えし、残りを子孫が頂くという風習から、いつしか丸太に食べ物を与えて、うんこ(=プレゼント)をもらうという風習に至ったのではと言われている。


うんこしてよ、ティオ
アーモンドとトゥロ(クリスマス菓子)を
ニシンは出さないでよ、塩辛すぎるからね
トゥロを出して、もっと美味しいから
うんこしてよ、ティオ
アーモンドとトゥロを出して
出したくなかったら棒で一発叩くよ
うんこして、ティオ!

冬至の頃に丸太を木の棒で叩く行為は、自然を冬から目覚めさせるために行われてきた大昔からの習わしに起源を発するという説がある。「うんこ丸太」に掛けられた赤い毛布を除けると、ティオのうんこならぬお菓子やプレゼントが現れ、子供たちの無邪気な歓声が家族団欒を彩る。翌日、スペインでは平日に戻るが、カタルーニャでは翌日も祭日であり、ゆったりとした時が流れる。

私は毎年、カタルーニャでは聖人サン・アステバを祝う祭日にあたる12月26日、カタルーニャ人のパートナーとその家族と共にバルセロナから車で1時間ほどのサン・アステバ・ダ・パラウトゥルデラという村を訪れ、そこに住む彼らの親戚とクリスマス料理を食べることにしている。だが昨年の12月26日、そこには例年と違った風景が広がっていた。

50メートルほど続くメインストリートに立つ並木の全てが、「政治犯」釈放を求める黄色のテープで覆われていたのだ。

レストランで食事中、老夫婦が入って来た。今では誰も正装しなくなったこの伝統的な祭日に、スーツによく磨かれた黒い革靴を履いた夫と、カラフルな洋服に身にまとい、杖をつく婦人が席に付いた。彼らの胸にも黄色いリボンが付けられていた。

都会の若者たちのようにデモに参加して声高に主張することはないが、片田舎で静かにカタルーニャの伝統を守り続ける彼らの確固たる信念を感じた。

昨年10月のカタルーニャ独立宣言後からスペインの刑務所に投獄されているカタルーニャの独立派政治家と市民独立運動グループのリーダーらは、地元で家族とクリスマスを祝うことは許されず、マドリード郊外の荒涼とした地に拘置されたままだ。

morimoto180116-2.jpg

後日、隣村のガソリンスタンドで「正装の老人」シャビエル・クルテス(93)に出会った。胸には黄色のリボンを付けていた Photograph by Toru Morimoto

プッチダモンの「遠隔地就任」を模索するが

さて、今後のカタルーニャ政府はどうなるのか。

12月21日に行われたカタルーニャ地方選挙では、独立派政党の合計議席が再び過半数を超えた。元カタルーニャ州首相カルラス・プッチダモン率いる政党「カタルーニャのための団結(ジュンツ・パル・カタルーニャ)」が独立派で最大の議席を獲得し、プッチダモンが今もカタルーニャの首相だという民意が示されている。

現在ブリュッセルに亡命中のプッチダモンは、カタルーニャに戻って首相に就任する意欲を示しているが、彼がカタルーニャに入った時点で、スペイン警察によって即逮捕されることが確実視されている。

プロフィール

森本 徹

米ミズーリ大学ジャーナリズムスクール在学中にケニアの日刊紙で写真家としてのキャリアを開始する。卒業後に西アフリカ、2004年にはバルセロナへ拠点を移し、国と民族のアイデンティティーをテーマに、フリーランスとして欧米や日本の媒体で活躍中。2011年に写真集『JAPAN/日本』を出版 。アカシギャラリー(フォトギャラリー&レストラン)を経営、Akashi Photos共同創設者。
ウェブサイト:http://www.torumorimoto.com/

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story