在日への視線は変わっていない 今こそ『パッチギ!』が見られるべき理由
ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN
<宗教や国境や民族や言語は違っても、皆自分と変わらないと気付くことは、数ある映画の役目の中でも特に重要な1つだ>
北朝鮮・平壌に行ってからもう7年がたつ。滞在5日目くらいに、庶民向けの市場に行った。外国人はなかなか立ち入ることが許されないエリアだ。目的は人民服の購入。市内では多くの男性の普段着で、見ているうちに一着欲しいと思ったのだ。
衣料品コーナーには膨大な数の人民服が吊るされていた。でもサイズが小さい。確かに街で見かける男性の多くは小柄で痩せている。売り子のおばさんにもっと大きいサイズはないのかと質問したら、僕をじろりと見てから彼女は、そんなに大きな人はこの国にはいない、と言った。思わずキム・ジョンウンがいるじゃないかと言い返したら、よせばいいのにガイドが律義に通訳を始める。これはまずい。そう思った次の瞬間、彼女だけではなく市場のスタッフや客たちは腹を抱えて大爆笑。
ほかにもいろんなことがあったけれど、同じように笑い、泣き、怒り、家族を愛す人たちだ。どこの国や地域でも、実際に接すれば当たり前のこと。でもそんな当たり前を、情報に溺れながら僕たちは時折忘れてしまう。こうして悲劇は起きる。
映画の役目とは何か。まずはエンタメ。告発。発見。共感。......いくらでもある。でも重要な1つは、宗教や国境や民族や言語は違っても、皆自分と変わらないと気付くこと。
現在の南北分断は、半島出身者が在日としてこれほど多くいる理由と同じく、日本のかつての植民統治が大きな要因だ。でも多くの人はこれを忘れる。嫌悪や優越感をあらわにする。だから彼らもムキになる。その連鎖がずっと続いている。
『パッチギ!』を見終えて思う。朝鮮高校の番長で祖国に帰ると宣言したアンソンはその後どうなったのだろう。松山とキョンジャの愛は成就したのか。東高校空手部の部員たちは在日に対して意識を変えたのか。
......映画は語られた要素が全てではない。むしろ語られない要素を想像させるための媒介だ。その思いが現実を変える。自分を変える。
3年前、京都朝鮮初級学校を訪ねた。右派系市民団体が校門前で「ろくでなしの朝鮮学校を日本からたたき出せ」「スパイの子供やないか」などと罵声を上げて街宣活動を行い、それをきっかけに京都市伏見区の山間の校舎に移転した学校だ。授業を見学し、給食を一緒に食べた。子供たちはニコニコと屈託がない。
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