90年代渋谷の援交を描く庵野秀明監督『ラブ&ポップ』の圧巻のラスト
ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN
<『新世紀エヴァンゲリオン』『シン・ゴジラ』監督の庵野が初めて手掛けた実写映画。トパーズの指輪が欲しい女子高生と奇妙な性癖の男たち。何かを欲しいと思ったら、あらゆる可能性を試すのがいかにも原作の村上龍的>
今回の作品の監督は庵野秀明。と書けば、『シン・ゴジラ』を多くの人は思い浮かべるだろう。でも違う。『シン・ゴジラ』はこの連載で取り上げない。......いや、断定はしないほうがいいか。もしも連載が何年も続いて観た映画がほとんどなくなったら、やれやれと吐息をつきながら取り上げるかもしれない。ただし今はまだ、『シン・ゴジラ』について論評しようとは全く思わない。
ということで今回は、『新世紀エヴァンゲリオン劇場版』制作終了後、庵野が初めて手掛けた実写映画『ラブ&ポップ』だ。原作は村上龍。だからストーリーは知っていた。でも『新世紀エヴァンゲリオン』を監督した庵野がどのように実写映画を撮るのか(脚色はエヴァンゲリオン時代から庵野と組んでいた薩川昭夫)、その興味から劇場に足を運んだ。
主人公の裕美は女子高生。趣味は写真を撮ること。もうすぐ夏休みで、裕美は仲の良いクラスメイト3人と一緒に渋谷へ水着を買いに出掛ける。
これが発端。その後に裕美が国際的なシンジケートに誘拐されるとか、ひそかに憧れていた男子高校生が目の前で死んでしまうとか、渋谷の街に巨大な怪獣が現れるとか、映画的展開が始まるわけではない。
水着を買うために入ったデパートで、裕美はたまたま目にしたトパーズの指輪が欲しくてたまらなくなる。でも価格は12万円。女子高生に買える金額ではない。ならば諦めるのか。諦めてこれまでと同じような日常を送るのか。諦めたくない。でも女子高生がデパート閉店までの限られた時間で、どうやったら12万円を稼げるのか。
結論は1つ。援助交際だ。それしかない。
このあたりはいかにも村上龍的だ。何かをやりたいと思い付いたならば、思い付いた今すぐにやらなければダメなのだ。何かを欲しいと思ったのなら、あらゆる可能性を試すのだ。
ただし4人は、特に素行に問題があるワルではない。今どきの女子高生だ。こうして渋谷を舞台に、4人のささやかな冒険が始まる。まずは伝言ダイヤルに電話するが、そこで一騒動。誘いに応じる男たちは、いずれも彼女たちが知らなかった性癖の男たち。これ以上ないほどにグロテスクで悪趣味だ。その意味では米映画『真夜中のカーボーイ』の女子高生版。彼女たちは惑う。これが年配の男性のスタンダードなのか。普通なのか。みんなこうなるのか。
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