コラム

決して聞き流せない、麻生副総裁の「戦争といじめ」発言

2022年07月20日(水)18時00分
麻生太郎

Toru Hanai-REUTERS

<参院選の街頭演説で、麻生氏が安全保障問題に関して「弱い子がいじめられる」と語っていた。加害の原因を被害側に見いだす物言いに批判があったが、問題性はそこにだけあるのではない>

自民党の麻生太郎副総裁がロシアのウクライナ侵攻など安全保障問題に関して次のように語ったと報じられた。参院選の街頭演説でのことだ。

「子供の時にいじめられた子はどんな子だった。弱い子がいじめられる。強い奴はいじめられない」

国家が侵略されるのも、子供がいじめの対象になるのも、どちらも攻撃される側の弱さに問題がある。だからこそ国家も子供も強くならなければならない。こういう話である。

防衛費の大幅増を求める自民党の主張に沿った例え話だが、戦争であれいじめであれ、加害の原因を被害側に見いだす物言いには大きな批判があった。それは当然だろう。

実は彼がこうした考えを示すのは初めてではない。2014年の自民党の会合でも、集団的自衛権について語るなかで「勉強はできない、けんかは弱い、だけど金持ちの子、これが一番やられる」などといじめの構図になぞらえ、批判されている。

ちなみに麻生氏いわく、勉強ができずにけんかが弱くても「金がない」子供はいじめられずに「無視」されるそうだ。ここでわざわざ「金持ち」を引き合いに出すのは、日本より人口や経済規模が小さかったり国防費が少なかったりする国はほかにいくらでもあるからだと思われる。

いかにもこじつけ感の強い論立てだが、要するに「日本こそ危ない」と聴衆の危機感をあおりたいのだ。日本はただ弱い(防衛費は世界9位なのだが)だけでなく豊かであるが故に、他国よりさらにターゲットになりやすい、だからこそ安全保障を強化すべきだというわけである。

同じ例え話を何度も繰り返していることから分かるように、麻生氏自身はこれらの発言を特に問題だと思っていないのだろう。2014年の発言の後の会見でもいじめを正当化する意図はないと釈明していたが、「意図」自体は確かにそうなのだろう。

その理由も想像がつく。なぜなら彼は日本を「攻撃する側」ではなく「攻撃される側」にのみなり得るという前提で話をしているからだ。

プロフィール

望月優大

ライター。ウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」編集長。著書に『ふたつの日本──「移民国家」の建前と現実』 。移民・外国人に関してなど社会的なテーマを中心に発信を継続。非営利団体などへのアドバイザリーも行っている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ戦争「世界的な紛争」に、ロシア反撃の用意

ワールド

トランプ氏メディア企業、暗号資産決済サービス開発を

ワールド

レバノン東部で47人死亡、停戦交渉中もイスラエル軍

ビジネス

FRB、一段の利下げ必要 ペースは緩やかに=シカゴ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story