真偽を宙づりにするNHKの謝罪
写真はイメージです batuhan toker-iStock.
<「字幕問題」が浮上したNHK・BS1スペシャル『河瀨直美が見つめた東京五輪』。問題は多岐にわたるが、なかでも「不確かな内容」というNHKの謝罪は、デモ参加者に一方的に着せた汚名をそそぐに足る言葉と言えるか>
昨年末に放送されたNHK・BS1スペシャル『河瀬直美が見つめた東京五輪』で、一人の匿名男性の登場シーンに「五輪反対デモに参加しているという男性」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」という2つの字幕が付けられた。
映像では男性自身はその字幕の内容を語っていなかったが、1月9日になり、NHKがこれらの字幕に「不確かな内容」があったとして謝罪した。
この男性がお金をもらっていたか否かどころか、五輪反対デモに参加していたかどうかについてすら確認できていなかったという。
東京五輪の公式記録映画の監督である河瀬氏や、チームの一員で当該男性の取材にも携わった映画監督の島田角栄氏らを追ったこの番組。問題は多岐にわたるが、なかでもNHKの謝罪における「不確か」という言い回しが気になった。
「間違った」と異なり、真偽を宙づりにするだけ。デモの参加者に対し番組が一方的に着せた汚名をそそぐに足る言葉だろうか。
デモなどを呼び掛けてきた「反五輪の会」は、「私たちが金銭によって参加者を動員するということは一切ありません」と抗議している。
河瀬氏や島田氏のコメントはNHKと異なる形容をしている。
まず河瀬氏は「『お金を受けとって五輪反対デモに参加する予定がある』という話が出たことはありません」「公式映画チームが取材をした事実と異なる内容が含まれていた」。続いて島田氏は「『五輪のデモに参加した』という主旨の発言は無かった」「公式映画チームとして取材した内容と異なるテロップが流れてしまった」としている。
いずれも「不確か」ではなく、自分たちが「取材した事実や内容と異なる」という説明だ。なお大手紙の表現も「不確かな字幕」「取材内容と異なる字幕」「確認が不十分な内容」と分かれている。
実際に番組を見てみると、東京五輪の「光と影」や「光と闇」という言い回しが河瀬氏や島田氏から度々出てくることに気付く。
島田氏が河瀬氏に対して「プロパガンダ的なドキュメンタリー映画」になることの懸念を伝える箇所もある。そして、競技の撮影に忙殺される河瀬氏に代わって、島田氏が五輪開催期間中の「影」の部分を映していたという役割分担の事実も明かされる。
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