コラム

自分がどうしたいか、「決め方」を知らない子供たち...未来の可能性を広げる取り組み始まる

2022年08月03日(水)10時10分
河合塾「ミライの選択」

河合塾の中高生向け未来探究のテキスト(筆者提供)

<自分の意志を決定するという行為について、学校では考えるタイミングが少ない。これを改め、人生設計に生かしてもらう取り組みを河合塾が開始した>

先々を見据えてどのような布石を打つべきか──。先行きの不透明感を背景に、「未来」と名の付く大学の学部や研究、企業の部署、CMが増えている。

前回の記事では、未来学のビジネスへの応用が欧米を中心に、政府レベル、企業レベルで進んだことに触れた。その成功例として、大成した国家スウェーデンがある。社会福祉をはじめ、さまざまな面で諸外国のロールモデルとなって久しい。

スウェーデンは約半世紀前の1973年、福祉、労働市場やエネルギー、国際社会での立ち位置など多岐にわたる分野の将来像についての政策を、官民が連携してまとめた。先見的な視座があったからこそ、福祉国家の筆頭に挙がるような現在の地位を得られたとも言える。

そんなスウェーデンの当時の政策と同名の取り組みを、学習塾大手の河合塾が進めている。

「ミライの選択」──。名称の一致は偶然だろうが、河合塾の取り組みは「子どもたち」の将来の進学や就職、さらに人生設計に生かしてもらうのが目的だ。

広まりつつあるSDGs教育とも相まって、先々に起こる変化を探り、正解のない時代を生き抜く力を育めるとして、教育現場からは歓迎する声があり、参加校は増えている。

子どもたちが大人になる5年後、10年後、あるいはもっと先、日本、そして世界はどうなっているだろうか。来たるべき時代に備える、子どもたちの「未来探究」の取り組みを追った。

2011年に始まった「ミライ研」

河合塾は2011年、「未来研究プログラム」(通称「ミライ研」)を立ち上げた。高校の学習指導要領を踏まえ、未来に向けてさまざまな「職業」や「自己」の可能性を探究するためのプログラムと位置付けている。

「未来」を学びの素材として、「もしかしたらこんな未来が起こりうる」「ひょっとしたらこんなアイデアが生まれるかもしれない」といった「生徒の好奇心を起点にする」視点のほか、「探究が進路につながる」と「先生が一緒に面白がれる」の3点を重視し、プログラムを展開している。

「『塾に通う子どもたち』に限定するのではなく、学校を通じて幅広くプログラムを提供していきたい」。

そう話すのは、この事業を主導するアセスメント開発チーム・未来研究プログラム担当者山本尚毅さん。進路選択は学校に通うすべての生徒が未来に向き合うチャンスであり、塾に通うような一部の生徒に限定せず、学校単位で広く伝えたいとの思いがある。

プロフィール

南 龍太

共同通信社経済部記者などを経て渡米。未来を学問する"未来学"(Futurology/Futures Studies)の普及に取り組み、2019年から国際NGO世界未来学連盟(WFSF・本部パリ)アソシエイト。2020年にWFSF日本支部創設、現・日本未来学会理事。主著に『未来学』(白水社)、『生成AIの常識』(ソシム)『AI・5G・IC業界大研究』(いずれも産学社)など、訳書に『Futures Thinking Playbook』(Amazon Services International, Inc.)。東京外国語大学卒。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、24年は3年連続最高益 日本の商社

ワールド

トランプ氏、中国による戦略分野への投資を制限 CF

ワールド

ウクライナ資源譲渡、合意近い 援助分回収する=トラ

ビジネス

ECB預金金利、夏までに2%へ引き下げも=仏中銀総
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story