コラム

NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグループを中心に急増する「時短サウンド」、その理由とは?

2024年04月09日(火)11時00分

時短サウンドは世界的なトレンドに

実を言うと、曲を短くするのはK-POPのガールズグループに限ったことではない。アップルミュージックで毎日更新される、世界中で最も聴かれている曲のチャート〈トップ100:グローバル〉を見ると、以前よりも短めの楽曲が増えた印象が強い。動画配信サイトやサブスクリプションで曲を聴く機会が多くなった現在、さくっとチェックできるコンパクトなサウンドが国内外を問わず歓迎されるのだろう。しかしながらK-POPのガールズグループにおいてはこの傾向がより強く感じられるのは何故だろうか?

やはりそれはNewJeansのワールドワイドな成功が影響しているのではないかと見ている。彼女たちの2作目のミニアルバム『Get Up』は2023年夏に発売されるやいなや、様々な国のヒットチャートのトップに。アメリカではビルボードのメインチャートで1位に輝いた。このモンスターアルバムに収録された6曲の合計時間は12分10秒。最も短いのはタイトル曲の36秒である。


MVではアルバムタイトル曲「Get Up」は「Cool With You」とカップリングされている HYBE LABELS / YouTube

にもかかわらず、音の情報量は多い。ドラムンベースとラウンジミュージック風のシンセ音でキュートな世界を演出する「Super Shy」、ブラジルの大衆的なジャンル=バイレファンキをとり入れながらエレガントなムードが漂う「ETA」といった風に、過去に流行った音を絶妙のバランスでミックスした"チルなポップス"は、彼女たちの清潔感のあるボーカル&ハーモニーと一糸乱れぬダンス(カルグンム)を加えて唯一無二の輝きを放っている。


『Get Up』から先行リリースされた「Super Shy」は非常に素早いワッキングという振付と相まって、NewJeansの魅力を印象づけた HYBE LABELS / YouTube

ギタリストの活躍がなくなる!?

今やK-POPを象徴する存在となったNewJeans。誰もがうらやむ彼女たちの成功を目の当たりにすれば、ベテラン、中堅、ニューフェイスを問わず、時短サウンドを目指すのは当然の流れだと思う。とはいえ、このあたりの話は確認できるデータがないので、あくまでも個人的な意見として読んでいただければ幸いだ。

「短い曲は聴きごたえがないのでは?」と思う人は多いだろう。昨年、「2022年のグラミー賞のロック系の部門にノミネートされた作品は、いずれもギターソロがなかった」というニューヨーク・タイムズ紙の記事が話題になったが、確かにベーシックな構成のみでギターソロのような遊び(もしくはゆとり)がないサウンドは面白味がなさそうに考えやすい。

ところがK-POPの場合は、その遊びの代わりになっているのがパフォーマンスとビジュアルなのだ。したがって楽曲もステージングの美しさ・かっこ良さをアピールするところを当然のごとく設けるタイプが多くなってくる。昨年デビューしたYOUNG POSSEはダンスがなければ魅力が半減してしまうと痛感するほどにメンバーの一挙手一投足とサウンドの関係が濃密だ。


YOUNG POSSEは強烈なヒップホップサウンドで他のアイドルグループと一線を画している YOUNG POSSE • 영파씨/ YouTube

時短サウンドは世の中のニーズによって生まれたものだ。振り返れば80年代にMTVの登場によって音楽と映像の蜜月は始まり、その影響下で新しく誕生したスタイルやトレンドはたくさんあった。現在はネットとの蜜月によって音楽が再び変わろうとしているが、ネットをうまく利用しながら成長してきたK-POPゆえに、いち早く変化したのもうなずける。今のところガールズグループで顕著な時短サウンドは、程なくしてそれ以外のアーティストにも広がっていくだろう。となると、2024年の韓国の音楽シーンが熱くなるのは必至である。

プロフィール

まつもとたくお

音楽ライター。ニックネームはK-POP番長。2000年に執筆活動を始め、数々の専門誌・ウェブメディアに寄稿。2012年にはK-POP専門レーベル〈バンチョーレコード〉を立ち上げ、イ・ハンチョルやソヒといった実力派を紹介した。現在は『韓流ぴあ』『ジャズ批評』『ハングルッ! ナビ』などで連載。LOVE FMLuckyFM楽天ポッドキャストの番組に出演中。著書は『K-POPはいつも壁をのりこえてきたし、名曲がわたしたちに力をくれた』(イースト・プレス)ほか。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story