NTT-NEC提携「5Gでファーウェイに対抗」の嘘
ドコモの親会社でもあるNTTが、通信機器サプライヤーであるNECと出資関係を持つことは利益相反に陥る危険性のある行動である。通信業者としてのNTTやドコモにとって、購入する通信機器は安いほうが自社の儲けは大きくなる。ところが、通信機器サプライヤーが自社の関連会社だということになると、遠慮なく買い叩くわけにもいかなくなる。NTTとドコモは、NECの機器が高くて性能も悪いのに、関連会社だという温情にほだされて買い支えることによって、自社の儲けを削る羽目に陥るかもしれない。
「世界に打って出る」というのも、NECが過去20年間に何度も繰り返してきた空約束にすぎない。例えば、2000年には当時NECの社内カンパニーの一つであった「ネットワークス」(通信機器や携帯電話)の海外売上比率が30%ほどだったのを「中期的には約50%に高めたい」としていた。しかし、実際にはNEC全体の海外売上比率は下落し、2002年には22%まで落ちた。
2004年には「海外携帯電話機市場が成長の柱」であると強調していたが、実際には2006年末に海外の携帯電話機市場から全面的に撤退した。2007年には会社全体の海外売上比率を30%以上にすることを目標にしていたが、実際には2010年に15%まで落ちた。その後海外売上比率は上昇に転じたものの、2018年度の時点でも24%にすぎない。
「やってる感」の演出か
以上のようにNECとNTTの資本提携に何らかの積極的意義があるとは思えないのだが、気になるのはその背後で日本政府の意向が働いているらしいことだ。『日本経済新聞』(2020年6月26日)の記事をそのまま引用すると、「『国内の機器メーカーを世界で戦えるようにするのが主眼だった』。経済産業省幹部は提携の狙いをこう話す。」
――実に不可解な一文である。提携した主体はNTTとNECであるはずなのに、なぜ経済産業省幹部がその狙いを説明するのか? それは今回の資本提携が経済産業省の働きかけによって実現したものだからだ、と解釈すれば、この不可解な一文も理解可能となる。
NECの幹部たちは、世界の移動通信インフラ市場で30.8%のシェアを持ち、研究開発費に年2兆円も投じるファーウェイに、シェアわずか0.7%の自社がとうてい太刀打ちできず、せいぜい日本市場を他の海外勢に奪われないようしがみついていくしかないことをよく認識しているはずだ。しかし、政府・経済産業省からはもっと海外市場へ打って出ろとハッパをかけられる。そこでオールジャパンで「やってる感」を演出してみた、というのが今回の提携劇ではないのか。
EVと太陽電池に「過剰生産能力」はあるのか? 2024.05.29
情報機関が異例の口出し、閉塞感つのる中国経済 2024.02.13
スタバを迎え撃つ中華系カフェチェーンの挑戦 2024.01.30
出稼ぎ労働者に寄り添う深圳と重慶、冷酷な北京 2023.12.07
新参の都市住民が暮らす中国「城中村」というスラム 2023.11.06
不動産バブル崩壊で中国経済は「日本化」するか 2023.10.26
「レアメタル」は希少という誤解 2023.07.25