NTT-NEC提携「5Gでファーウェイに対抗」の嘘
NTTドコモの5Gブース(2019年の東京ゲームショウ)。3Gでは技術革新の中心的な担い手だったが、5Gでは脇役だ Issei Kato-REUTERS
<研究開発費でも特許件数でもファーウェイに遠く及ばず、今から追いつくのは不可能。では、この提携の本当の狙いは何なのか>
今年6月25日、NECはNTTから645億円の投資を受け入れ、NTTはNECの株式の4.77%を保有する第3位の大株主になった。新聞報道によると、資本提携の目的は次世代通信(5G) インフラの共同開発を推進し、世界トップの競争力を持つファーウェイに対する「対抗軸をつくる」ことなのだそうだ(『日本経済新聞』2020年6月25日)。
この報道には唖然とした。ファーウェイが昨年投じた研究開発費は1316億元(2兆785億円)である。それより二桁も少ない金額の投資によって「対抗軸をつくる」なんて、まるで風車に向かって突撃するドン・キホーテみたいである。その話を真に受けたかのように報じる日本のメディアもどうかしている。「たった645億円で『ファーウェイに対抗する』なんてバカなことを言っていますが」と解説付きで報じるべきではないだろうか。
その後の報道によれば、NECの新野社長は研究開発や設備投資に「645億円しか使わないということではない」(『日本経済新聞』2020年7月3日)と発言しているので、さすがに竹槍で戦闘機に対抗するような話ではないようである。それにしても、NECの2018年度の研究開発費は1081億円、NTTは2113億円で、両者の研究開発の総力を結集してもファーウェイの15%にすぎない。仮にNECとNTTのエンジニアがファーウェイの何倍も優秀だとしてもおよそ「対抗軸」にはなりえない。
N T T-N E Cは世界9位
しかも、残念ながらNECとNTTのエンジニアがファーウェイの何倍も優秀だということを証明する客観的データはない。2019年秋までの時点で5Gの標準必須特許として宣言された特許ファミリー数を比較すると、ファーウェイが3325件で世界でもっとも多く、全体の15.8%を占めている(図参照)。韓国のサムスンとLG電子がそれに次ぎ、ノキア(フィンランド)、ZTE(中国)、エリクソン(スウェーデン)と世界の有力な通信機器メーカーが名を連ねている。
NECが持つ5Gの標準必須特許はわずか114件(0.5%)にすぎない。NTTドコモが754件持っているので、両者を合わせると868件(4.1%)になるが、これでも世界9位でファーウェイの背中は遠い。
日本の報道ではいまだに5Gに「次世代通信」というまくら言葉をかぶせることが倣いになっているが、すでに2019年に韓国、アメリカ、中国でサービスが始まり、日本でも今年始まったので、次世代というよりすでに「現世代」になりつつある。5Gの技術開発は各国のメーカーがめいめい勝手に行っているのではなく、「3GPP」という国際標準化団体に各国・各メーカーのエンジニアたちが集い、標準化した結果を年1回ぐらいのペースで発表している。今年7月にはその16番目のバージョンが出たばかりである。
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