コラム

NTT-NEC提携「5Gでファーウェイに対抗」の嘘

2020年08月13日(木)20時34分

5Gのサービスが各国で本格的に立ち上がるのはこれからであるが、技術開発の面では後半戦といってもいい段階に入りつつある。野球の試合に例えれば、ファーウェイ対NECの試合はすでに5回裏まで進んでおり、3325対114でファーウェイが大きくリードしていた。そこでNECはNTTと連合チームを組むことにしたが、それでもファーウェイの選手たちの年俸総額が2兆円、NEC-NTT連合の年俸総額が3000億円では、後者に勝ち目があるとは到底思えない。

「ファーウェイ対抗軸」というには余りに小粒な645億円の出資には、報道とは異なる別の意味があるように思われる。

5Gのように2万件以上もの特許が絡むハイテク機器の場合、一つ一つの特許についてライセンシング契約を結ぶような煩雑なことはやっていられないので、関連特許をまとめて特許プールとし、5Gに関わる機器を作るメーカーはその特許プールに対してロイヤリティや特許料を支払う。ファーウェイ、サムスン、LG電子、ノキアなど、技術的な貢献が特に大きい企業はクロスライセンシングを行ってロイヤリティを支払わずに標準必須特許を利用できるようになる可能性が高い。

一方、NECのように貢献が小さい企業の場合は、特許プールに対してロイヤリティを支払わない限り5Gの基地局などの機器を作ることは許されない。NECには、5Gの技術開発をするためではなく、5Gの機器を作るために資金が必要なのだ。

N E Cに対する「温情出資」?

そもそもNECの通信インフラ機器の主たる販売先である日本に関しては、日本政府が通信インフラから中国製品を排除するよう暗黙の指示をしているため、「ファーウェイに対抗する」と肩をいからせなくても、最初から敵はやってこないのである。NECが日本国内の通信インフラ機器市場において対抗しなければならないのはむしろノキア、エリクソン、サムスンといった中国勢以外の通信機器メーカーである。これら外国勢は図からもわかるように5G技術への貢献が大きいので、ロイヤリティの負担が少なく、NECより有利である。645億円の出資は、要するに外国勢との競争においてNECに下駄をはかせてやろうという温情を反映したものなのではないだろうか。

NECが「電電ファミリーに戻るつもりは毛頭ない」だとか、NTTとタッグを組むことで「世界に打って出る」というNECの新野社長の言葉(『日本経済新聞』2020年8月3日)はとても空しく響く。一般に、企業間で出資が行われると、出資元を「親会社」、出資先を「子会社」と呼ぶ。つまり、今回の出資によってNECとNTTは「ファミリーになった」のであり、「ファミリーに戻るつもりはない」という言葉は意味不明というほかない。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

次期FRB議長の条件は即座の利下げ支持=トランプ大

ビジネス

食品価格上昇や円安、インフレ期待への影響を注視=日

ビジネス

グーグル、EUが独禁法調査へ AI学習のコンテンツ

ワールド

トランプ氏支持率41%に上昇、共和党員が生活費対応
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story