コラム

NTT-NEC提携「5Gでファーウェイに対抗」の嘘

2020年08月13日(木)20時34分

そもそも日本は中国に比べて5Gに対してシラケており、いっこうに期待感が盛り上がってこない。中国では5Gサービスへの加入者が2020年6月時点ですでに1億人を超えている。(中国移動が7020万人、中国電信が3784万人、中国聯通は発表なし)。一方、日本では、2020年3月末時点のドコモの5G加入者数はわずかに1万4000人である。(他の2社は不明)。

中国政府は、コロナ禍で傷んだ経済を立て直すために、今年は「新型インフラ建設」を打ち出し、5Gのインフラもその一環として建設が推進されている。今年6月時点で中国移動は全国で14万基、中国電信と中国聯通は共同で14万基の5G基地局を設置しており、年内にはそれぞれ30万基以上の基地局が整備される見込みである。これだけの基地局が整備されると、南京市、成都市といった各省の中心都市ばかりでなく、蘇州市、常州市といった全国293の地区レベルの都市でも中心市街地で5Gサービスが使えるようになる(『経済参考報』2020年6月10日)。

一方、ドコモの場合、2020年7月時点で5Gサービスが使える場所は、ドコモショップの店内など全国でわずか262か所である。5Gサービスに加入したとしても、お店でちょっと使ってみることしかできず、外に出たらもう使えない、というのでは、誰も加入したいとは思わないであろう。ドコモの目標は、2021年6月までに基地局の数を全国で1万基に増やすというおっとりしたものであり、スタートダッシュにおける中国との差は歴然としている。

技術革新の主役から脇役へ

こうしたドコモの不熱心さは、中国の通信会社と比べて不熱心であるばかりでなく、約20年前のドコモ自身と比べても不熱心である。

2001年にドコモが世界に先駆けて第3世代(3G)の通信サービスを始めたとき、それはそれは熱心に携帯電話の世代交代を推進した。ドコモは3年間に1兆円の設備投資を行って日本全国に3Gの基地局網を整備した(『産経新聞』2002年3月12日)。そればかりか欧米や香港の通信会社に対して1兆9000億円もの投資を行い、3Gへの移行を世界的に推進しようとした。ドコモの3Gへの積極投資は、日本が技術的に孤立した第2世代(2G)を早く終わらせたいという動機に基づいていた。

いまのドコモに往時のような熱心さはない。5Gの基地局の整備には2023年度までに1兆円を投じる方針だという(『日本経済新聞』2020年7月10日)。20年前には3年間で1兆円を投じたのが、今は4年間で1兆円である。3Gの時にはドコモなど日本勢は技術革新の主役だったのが、5Gにおいては脇役にしか過ぎない。そうした認識が5Gに対する不熱心さの背後にあるのかもしれない。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インド製造業PMI、3月は8カ月ぶり高水準 新規受

ワールド

中国軍が東シナ海で実弾射撃訓練、空母も参加 台湾に

ビジネス

ユニクロ、3月国内既存店売上高は前年比1.5%減 

ビジネス

日経平均は続伸、米相互関税の詳細公表を控え模様眺め
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story