コラム

中国への怒りを煽るトランプの再選戦略の危うさ

2020年05月20日(水)17時20分

トランプ政権の狙い通り、ファーウェイが基幹ICを調達できなくなり、そのままではスマホの生産を縮小せざるを得なくなったとしよう。ファーウェイはどうするかというと、おそらくスマホ事業をアメリカの輸出規制の対象となっていない中国の他社(オッポ、ヴィーヴォやシャオミなど)に売却する。その結果、ファーウェイは移動通信のインフラ機器を主たる事業とし、5Gの標準必須特許の15%を握る会社と、世界第2位のスマホメーカーの二つに分かれる。しかし、それによって中国の産業力はいささかも減じないだろうし、アメリカの「安全」が向上するとも思えない。

アメリカ経済にとって害しかもたらさない政策であっても、中国を叩いているそぶりを見せれば、コロナ禍によって健康と経済にダメージを受けた国民は拍手喝采するのかもしれない。だが、これは世界を引き裂きかねないきわめて危険な道である。まず、中国がなんらかの形で報復に出る可能性が高い。中国との貿易の縮小は物価高を通じて国民の生活にダメージを与えるため、トランプ政権はますます対外的な強硬策を打つことで国民の不満を外にそらそうとする。

第一次世界大戦以前の世界もグローバリゼーションが進展していた。それによって被害を受けた人々の不満を外の敵に向けさせるためにナショナリズムが鼓吹され、一つの事件をきっかけに世界戦争に突入してしまった(小野塚知二「被害者意識に彩られたナショナリズムへの回帰」『週刊エコノミスト』2017/1/3-10)。アメリカと中国はそうした歴史を思い起こさせるような危険な流れに乗りかけている。

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プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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