消費税ポイント還元の追い風の中、沈没へ向かうキャッシュレス「護送船団」
経産省によるQRコードの「規格統一」はかえって普及の妨げになる Issei Kato- REUTERS
<消費税のポイント還元をエサに一気にキャッシュレス決済の普及を進めようという経産省主導の目論見が失敗する理由>
2019年10月1日から消費税が引き上げられるが、中小の小売店で、キャッシュレスの手段によって商品を買うと支払額の5%を還元してもらえる。この還元分は日本政府が負担することになっており、政府はそのために2800億円の予算を投じるという。
実に耳寄りな話で、私はクレジットカード、電子マネー、スマホ決済などキャッシュレスの支払手段を何種類も用意して待ち構えている。だが、中小の小売店ならどこでも還元が受けられるというわけではなくて、政府に申請して認可を受けた小売店でなくてはならない。経済産業省によれば、その申請数は消費税の引き上げまで1カ月を切った9月6日の時点でもまだ58万件だそうで、日本全体の中小小売店の4分の1程度らしい。
国はなぜ2800億円もかけるのか
お客を呼び込む絶好のチャンスなのに、なぜ小売店の動きが鈍いのだろうか。一つにはお客がキャッシュレス支払いをしたときに店側が決済手数料を負担しなければならないという問題があるようだ。クレジットカード支払いの場合、還元が行われる期間は手数料が上限3.25%までに抑えられるが、それでも小売店にとっては軽くない負担だ。ただ、ソフトバンク系のPayPayやLINE Payなどスマホ決済の方は時限付きながら決済手数料をゼロにするといっており、店側ではQRコードを店頭に置いておくだけでいい。つまり、店側は負担ゼロでキャッシュレス支払いを受けられるし、それによって新たな客が獲得できる可能性も高いのに、このままだとキャッシュレス支払いができる中小小売店は全体の4分の1程度にとどまりそうである。
そもそもなぜ経済産業省は巨額の国費を投じてまでキャッシュレス化にこんなに前のめりで取り組んでいるのだろうか。キャッシュレス化が実現すれば、消費者は外出の時に現金を持ち歩かなくてすむようになり、小売店はレジに1円玉から5000円札まで常に準備しておく手間が省けるし、計算と現金の残高が合わないことに悩まされなくてすむようになる。こうして経済全体としての効率性が高まるので2800億円の国費を投じてもそれを上回るメリットがある、とソロバンをはじいているのであろう。
ただそれ以上に、中国や韓国、スウェーデンやインドなどでキャッシュレス化が進んでいるのに、日本がいつのまにかキャッシュレス後進国になってしまったことに対する焦りに突き動かされているようである。日本は世界で初めて携帯電話にお金を入れる「おサイフケータイ」のサービスを始めるなど、世界のキャッシュレス化をリードしていたはずなのに、このままでは世界の「キャッシュレス文明」に取り残されてしまう、と経済産業省の報告書『キャッシュレス・ビジョン』は強い危機感を表明している。
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