コラム

消費税ポイント還元の追い風の中、沈没へ向かうキャッシュレス「護送船団」

2019年09月11日(水)16時00分

しかし、現金なしの外出を可能にするには、どこででもキャッシュレスの手段で支払いができるようになる必要がある。中小小売店の約4分の3では現金以外受けつけないというのでは、依然として外出時に現金は不可欠である。2800億円費やしてもキャッシュレス化へ数歩前進しただけ、ということになれば、単に私のような一部のめざとい国民に小銭をバラまいただけ、ということになりかねない。(ごめんなさい)

経済産業省のこれだけの旗振りにもかかわらず日本でキャッシュレス化の進展が遅いのはキャッシュレス支払いの手段を提供する産業が複雑で足並みがそろわないことも影響している。

まずクレジットカード業界だが、日本では割と高額の買い物をするときの支払手段という位置づけが定着していて、決済手数料も高めである。そのため、客単価が安い中小の小売店や飲食店ではクレジットカードを使えるようにしようというインセンティブが弱い。クレジットカード業界だけでは完全なキャッシュレス化には至らないだろう。

ではフェリカなどのICカードを利用した電子マネー(Suicaなどの交通系カード、nanaco, waonなど)はどうか。これを使えるようにするには、小売店の側でリーダー/ライターと呼ばれる端末を用意しなければならないし、やはり決済手数料がかかる。

的を絞れない経産省

一方、QRコードを利用した決済(PayPay、LINE Pay、楽天ペイ、d払い、Origamiなど)は、バーコードリーダーを備えたレジスターを備えるか、あるいは単にQRコードを店先においておけばよく、導入の初期コストが低い。加えてPayPayとLINE Payは当面決済手数料をゼロにするという。客単価が低い小売店で導入するならQRコード決済が一番だと思うが、買い物をする消費者がスマホを持っている必要があり、スマホに決済アプリをダウンロードするなど使う準備をしなければならない。

超高齢社会の日本では消費者がみなスマホを持ち、決済アプリをダウンロードし、銀行口座と紐づけるという作業をするのはかなりハードルが高い。結局、三種類あるキャッシュレス支払手段のどれに乗ったらいいのか、政府(経済産業省)はどれを推進したいのかがはっきりしない。その結果、さまざまなキャッシュレス決済手段が入り乱れ、コンビニの店頭には何十個ものロゴマークが並び、ますます何が何だか分からなくなってきている。

私としては、小売店の側での導入の気軽さを考えると、現状ではQRコード決済が抜きんでているし、どうせ政策で推進するのであれば、老人向けスマホ講座なんかもやって、老人でもスマホ支払いができるようにしたらいいと思う。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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