消費税ポイント還元の追い風の中、沈没へ向かうキャッシュレス「護送船団」
経済産業省は2018年2月まではまだICカード推しだったが、中国のアリペイやWeChatペイが中国人観光客とともに日本に押し寄せてくるに至って、QRコード決済の推進に舵を切り替えた。そして、2018年7月には「キャッシュレス推進協議会」を立ち上げた。
この協議会で取り組んだのがQRコードの規格統一である。現状では各社がバラバラにQRコードの規格を作っているので、このままでは小売店はPayPay、LINE Pay、楽天ペイ・・・と、各社に対応したQRコードを店頭に用意しておかなくてはならない。それでは大変だというので、QRコードを一個店頭に備えておけば各社の決済アプリが使えるように規格を統一しようというのである。
だが、以前もこのコラムで論じたように、この方針は一見してQRコード決済を推進しているようでいて、実際にはQRコード決済の普及の足を引っ張るものである。キャッシュレス決済が普及するうえで肝心なことは、決済業者が中小小売店を足しげく回って説明し、導入するよう説得する地道な営業活動を行うことである。ところが規格を統一してしまうと、ある業者がせっかく開拓した小売店でも他社の決済アプリも使えるようになり、フリーライドされてしまうことになる。それだとバカバカしくて誰も営業をしなくなるだろう。
大手銀行と大手小売の陰謀か?
さすがにキャッシュレス推進協議会でもその問題には気づいていて、小売店を開拓した業者のアプリだけが使えるようにすることを検討中であるという(綿谷禎子「進むQRコードの共通化。「JPQR」の登場で〝○○ペイ〟はもっと分かりやすくなるのか」)。
そもそもこのQRコードの規格統一の話自体、先行する業者の足を引っ張るために大手銀行や大手小売業者などが役所を巻き込んで仕掛けたものではないかと私は疑っている。中国でのアリペイやWeChatペイの発展ぶりを見ると、スマホマネーは銀行の存立意義そのものを根底からひっくり返すぐらいの破壊的な影響を及ぼすものであることがわかる。中国では、ユーザーは銀行口座から預金を引き出してアリペイに入金し、そのなかで公共料金の支払いや日常の買い物の支払いに使うだけではなく、MMFで運用したり、他のユーザーに送金することもできる。つまり、スマホマネーによって銀行の消費者業務の大半が代替されてしまうわけで、手数料収入に頼る銀行にとっては大きな脅威なのである。
日本のQRコード決済業界では、PayPayとLINE Payが普及に力を入れており、毎週のようにどこかのコンビニで使えば100円割り引き、といったキャンペーンを繰り広げている。営業努力の甲斐あって、最近では中小小売店でこれらが使えるというマークを見ることも多くなってきた。
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