ファーウェイ問題の核心
日本政府や産業界でファーウェイ機器のリスクがこれまで真剣に検討された様子はないが、それがここへ来て排除へ急展開してきたのは、アメリカが同盟国に対してファーウェイ製品を排除するよう強いプレッシャーをかけてきたからだとみられる。
それに対する日本政府の対応は実に玉虫色である。機器調達に際しては情報漏洩に注意する、というのは文字通りにとれば、ごく当然のことを言っているにすぎない。アメリカに対しては「実質的にはファーウェイとZTEの排除ということで皆が了解しています」と説明し、中国に対しては「当然の原則を示しただけです」と説明するつもりなのだろう。
問題は果たしてファーウェイの機器には本当に「裏口」があって情報が中国に漏れるリスクがあるのかどうかである。私に言えることは、これまでのところそうしたリスクの存在を裏付ける決定的な証拠は挙がっていないということだけである。
4Gの機器の場合には暗号化したデータを転送するので情報を抜き取ることは難しいが、5Gになると、伝送の途中でルーターを経由するところでいったん暗号を解除するため、そこで情報が抜き取れられる可能性はゼロではない、というのがソフトバンクの最高技術責任者の見立てである(「石川温のスマホ業界新聞」Vol.305)。
ただ、これは5G一般に言えることであり、ファーウェイだけにこの可能性があるというわけではないから、ファーウェイを排除する理由にはならない。
中国製品を警戒すべき論拠としてオーストラリアの政府高官は2017年に中国で制定された「国家情報法」をあげる(『Wedge』2019年1月号、國分俊史稿)。同法の7条では「いかなる組織も公民も国家の情報活動を支持、協力しなければならない」とされているのでファーウェイやZTEも、中国の公安機関に情報を出せと言われれば出すだろう、だからリスクがある、というのである。
ただ、組織犯罪の捜査という限定された範囲ではあれ、日本にも捜査機関による盗聴を認める「通信傍受法」がある。ファーウェイのことを危険だと言っている当のアメリカでは、国家安全保障局(NSA)がグーグル、アップル、フェイスブック、マイクロソフト、ベライゾンなどに協力させて国内外で非常に広範囲の情報を収集していることが元NSA職員のエドワード・スノーデン氏によって暴露された(『スノーデン 日本への警告』集英社新書)。
要するに、アメリカ政府は自分たちが情報の抜き取りをやっているから中国政府もファーウェイとZTEを利用してできるに違いない、だからそれを防がなければいけないと考えているようだ。
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