コラム

シャープを危機から救うのは誰か

2016年02月22日(月)17時00分

 産業革新機構は、優れたアイデアや技術を持ちながらも資金が足りないために大きなビジネスに発展させられない日本の企業家たちを出資によって助けることを目的とする機関です。つまり、機構が提供するのは主に資金であって、経営ノウハウや技術を提供するわけではありません。もしシャープが例えば財テクの失敗で一時的な資金難に陥っているだけで、本業の方は大丈夫なのであれば機構の支援を受けるのでもいいでしょう。

 しかし、シャープの場合、2012年度、2013年度、そして2015年度と数千億円規模の巨額赤字が続いています。経営不振は本業そのものが原因の構造的なものであり、経営を抜本的に刷新しない限り、再生は不可能だと思います。

地味な製造受託で売り上げは5倍

 一方、鴻海は電機産業において世界一のもの作り企業です。iPhoneも単にアップルの優れたデザインとアイデアだけでなく、鴻海の優れたもの作り技術があってこそ生み出されたものです。加えて鴻海は、自社ブランド製品を持たず、製造受託という地味な仕事だけをコツコツとやってシャープの5倍もの売上を記録しているのですから、経営者の力も卓越していると思います。

 シャープは様々な製品分野の技術と特許を持ち、有力なブランドも持っていますから、それらと、鴻海の優れた製造技術と経営力とが結びつけば、シャープは今の何倍も輝く可能性があると思います。産業革新機構と鴻海のうち、シャープの再生を助けるインプットを与えうるのはどちらかと考えたとき、迷う余地などないと思うのは私だけでしょうか。

【参考記事】ブランド広告大戦争に既に負けている日本勢

 シャープは様々な製品で世界をリードしてきました。例えば、1994年には世界に先駆けて住宅用太陽光発電システムを発売しました。それまで灯台や人工衛星などに応用分野が限られていた太陽電池を、将来化石燃料に代替する可能性を持ったエネルギー源として期待されるまでに育て上げた立役者がシャープでした。

 また、2000年に世界に先駆けてカメラ付き携帯電話を発売したのもシャープです。水蒸気で食べ物を焼くというユニークなオーブンを開発したのもシャープです。こうした革新的な製品開発力は、鴻海の製造技術と経営の力を借りることでまだまだ大きく花咲く可能性があると思います。

 他方で、シャープは時々私には理解できない経営判断をしてきました。太陽電池の例で言いますと、シャープは1990年代から2006年まで世界のトップメーカーでした。2004年頃からドイツをはじめとするヨーロッパで太陽光発電の導入が急ピッチで拡大していきました。ところが、長年の苦労が報われる千載一遇のチャンスを前にして、なぜかシャープは積極的な生産拡大をしませんでした。そのため、2007年に世界トップの座から滑り降りて以降、世界の中での順位をどんどん落としていったのです。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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