コラム

アリババ「米中欧日に次ぐ経済圏を構築する」大戦略とは何か

2017年12月03日(日)07時56分

国有化リスクか、「中国の国益」と見なされるリスクか

そして、中国企業であるアリババ最大のリスク要因は「中国リスク」だ。習近平国家主席は中国で新秩序を推し進め統制を強めている。そして同国の産業政策は、基幹産業は国営企業が担い、その他消費市場に近い産業及び新規産業は民間企業が担うという役割分担。その一方で、もともとは中国の基幹産業以外の業種と見なされたアリババが担ってきた事業は、皮肉にも国有企業が担うべきであるとされる基幹産業にまで育ってきている。

アリババはこれまで述べてきた事業領域以外でも、配車サービスなどのシェアリングビジネスでは独占的なマーケットシェアを確保している。自転車シェアリングでは、すでにアジアや欧州に進出し、米国や日本でも展開しようとしている。中国内で帝国と化したアリババ最大のリスクは、国有化されるリスクや中国政府からのコントロールが強まるリスクではないだろうか。

このような雰囲気を察知してか、最近ではジャック・マーもかなり中国政府に配慮した発言をするようになってきているようだ。もっとも、中国政府への忠誠心を明らかにしていくことは先進国への本格進出の大きな障害になってしまう......。国有化のリスクか、あるいは中国政府に迎合せざるを得ない展開を迫られ、「世界をよりよい場所にする」企業ではなく、実際には「中国の国益だけを考える」企業と見なされてしまうリスクが顕在化してくるのか。

今はまだこのリスクは顕在化していないが、中国の巨大な市場と政府の後押しを背景に急成長できたアリババだからこそ、アリババ自身がこれから対峙していかなければならない難題があり、ジャック・マーのミッション・リーダーシップの真価や本気度が問われるところなのだ。


『アマゾンが描く2022年の世界
――すべての業界を震撼させる「ベゾスの大戦略」』
 田中道昭 著
 PHPビジネス新書

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米相互関税、バングラデシュとスリランカの衣料品製造

ワールド

スイス中銀理事、米大統領による「為替操作国」批判に

ワールド

トランプ氏、有罪判決のルペン氏にエール 「仏にとっ

ワールド

韓国憲法裁が尹大統領の罷免決定、即時失職 60日以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描かれていた?
  • 2
    「最後の1杯」は何時までならOKか?...コーヒーと睡眠の「正しい関係」【最新研究】
  • 3
    【クイズ】日本の輸出品で2番目に多いものは何?
  • 4
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のため…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    得意げに発表した相互関税はトランプのオウンゴール…
  • 7
    「ネイティブ並み」は目指す必要なし? グローバル…
  • 8
    アメリカから言論の自由が消える...トランプ「思想狩…
  • 9
    テスラが陥った深刻な販売不振...積極プロモも空振り…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story