コラム

女性向けマーケティングの要諦を「美白」の戦略分析から探る

2017年03月23日(木)15時33分

「クレ・ド・ポー ボーテが理想の顧客像として定義する問題意識の高い女性は、美白ケアにおいても、なりたい肌の目標を実際のダイヤモンドの輝きのレベルにまで高めるべきである」という提案をしているのだ。

ダイヤモンドという表現は、このターゲット層の女性には極めてわかりやすいメタファー(比喩・隠喩)にもなっており、同ブランドでは、このコンセプトにふさわしい品質も確保されていることを自負している。

最高級に位置するラグジュアリーブランドにおいては、クレ・ド・ポー ボーテのように自社と顧客に対して高い理想を掲げることが求められる。もっとも、本当に求められるのは、その高い理想がブランド哲学のなかに文章として規定されるだけではなく、それらが実際の商品や社員の行動にまで練り込まれているかということなのである。

資生堂において、このブランドが社内組織でも完全に独立した事業部となっており、研究、商品開発から店頭活動に至るまで一気通貫の体制にしているのも、同ブランドの高い理想を実現しようとする目的であると考えられる。

【参考記事】最適な色のファンデーションを「出力」する3Dプリンターはいかが?

◇ ◇ ◇

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最後に、最初に述べたコーポレートブランディングと商品ブランディングに加えて、セルフブランディングとショップブランディングについても触れておきたい。

ブランディングの階層には、下から見ると、開発者や経営者のセルフブランディング、商品ブランディング、セレクトショップやブランドショップなどが事例となるショップブランディング、企業全体がブランド化している場合のコーポレートブランディングの4つがある。

セルフブランディングとは開発者や経営者自身のブランディングのことであり、ビジネスや商品に対するこだわり・想い・哲学などが主要ポイントである。そして、経営者や開発者の商品に対するこだわり・想い・哲学が忠実に当該商品に練り込まれ、顧客に愛されるようになると、その商品は商品ブランドとなる。

もっとも、店舗全体や会社全体がブランド化していくためには特定の商品だけがブランド化しても不十分だ。そのブランドがショップレベルやコーポレートレベルでブランド化するためには、店舗スタッフや社員1人ひとりが創業者や経営者のセルフブランディングを共有しなければならないのだ。ここで紹介した2つのブランドがこれらのレベルにおいてもブランド化している鍵は、この点にあると言えよう。

あなたの会社では、開発者や経営者は商品やビジネスにどのようなこだわり・想い・哲学をもっているだろうか。そして、それらは社員1人ひとりに共有されているだろうか。

プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

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