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「中華文春砲」郭文貴と、29年成果なしの民主化運動家の違い
筆者(左上)は5月、中国共産党高官の不祥事を暴露し続ける郭文貴と中国のネット番組で対談した 路德訪談-YouTube
<あの天安門事件から29年。なぜこの間、中国の民主化運動は何一つ成し遂げられなかったのか。なぜ今、米在住の大富豪「改革者」郭文貴を共産党は恐れるのか>
間もなく、29年目の「6月4日」がやって来る。1989年6月4日、天安門事件――。私は当時、来日して1年3カ月が過ぎた頃で、新宿歌舞伎町で案内人をしていた。
本コラムを読んでくださっている方ならお分かりだと思うが、あれから私は大きく変わった。著作活動を行い、レストランをオープンし、日本国籍を取り、選挙に立候補した。一方、北京の天安門広場に砕け散った中国の民主化運動はどうか。
皆さんは郭文貴(クオ・ウエンコイ)についてご存じだろうか。
昨年9月のコラム「えっ? 中国共産党が北ミサイルより恐れる『郭文貴』を知らない?」で取り上げたが、米国で実質亡命状態にある中国人大富豪にして、中国共産党高官の不祥事を暴露し続けている人物だ。
習近平の右腕にして「清官」(清廉潔白な官僚)のイメージが強かった王岐山の汚職、さらには有名女優とのセックススキャンダルまで「爆料」(リーク)を続け、全世界の中国人の注目を集めている。
既存の真面目すぎる民主化運動とは一線を画し、下世話な世界から中国の体制転換を目指す。「下(しも)からの改革者」「中華文春砲」とも言うべき存在だ。
彼の影響力は甚大だ。お堅い日本のメディアは民主化、体制転換という話題が下世話な切り口から語られることに違和感を覚え、最近になるまでほとんど取り上げてこなかった。
だが、考えてみてほしい。大上段の理念で人は動くだろうか。革命が起きるのは「明日のパンがない」という経済問題であり、あるいは支配者の汚職や横暴への怒りだ。民衆の怒りに火をつけるのは経済か、あるいは下世話な話題なのだ。
頭でっかちの理念は何も生み出さない。天安門事件から29年間、米政府をはじめ海外から多くの支援金をもらいながらも、何一つ達成できなかった中国民主化運動がこのことを証明している。
郭文貴が自分の支持者を見限り始めた理由
郭文貴はいかがわしい人物かもしれないが、人々の注目を集めて世の中を動かす力を持っている。だからこそ、国外亡命した学生運動リーダーたちの民主化運動については歯牙にも掛けていない中国共産党が、郭ひとりを恐れているのだ。
郭が引き起こしたムーブメントは既に1年以上も継続している。世界中で多くのフォロワー(支持者)が生まれた。日本にも郭文貴日本後援会なるものが存在する。東京の繁華街で街宣活動を行う彼らの姿を見た人もいるのではないか。
最近、郭文貴はこうしたフォロワーたちと一線を画す姿勢を見せている。当初は自らのムーブメントを盛り上げるためには必要だと我慢していたようだが、ついに堪忍袋の緒が切れたらしい。
というのも、結局のところムーブメントを起こしているのは彼個人の力でしかない。フォロワーはいわば金魚の糞で、郭の影響力を利用してやろう、ひょっとしたら大富豪から金がもらえるかもしれない、という汚い魂胆しかないからだ。
民主主義は素晴らしい。しかし、制度を導入すればすぐに民主主義が実現するわけではない。政治制度を支える人間こそが根本だ。中国には民主主義制度がないだけでなく、民主主義を担えるような人間がいないのではないか。それこそが最大の問題だろう。
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