コラム

横断歩道上でいつまでも歩行者が犠牲になる日本 運送業界に変革の狼煙

2022年03月30日(水)20時45分

歩行者優先の社会を目指す「Respect the Law 38プロジェクト」

交差点でのトラックやタクシーといった事業用自動車による悲しい事故を無くすプロジェクトが業界内で注目されている。2021年6月1日から始まった、道路交通法第38条(横断歩道での歩行者優先)を守ることを推進する「Respect the Law 38」プロジェクトだ。ドライブレコーダーを使った事故防止・労務管理・監査対策などのコンサルティングを行うディ・クリエイトの上西一美氏、物流・自動車サービスを展開するキムラユニティー代表取締役社長・木村昭二氏の2人が発起人だ。

JAFの調査に驚き、「道路を走行するクルマが中心的な存在で、歩行者がクルマに道を譲る社会でよいのだろうか。そう言わせたくない」という一心でこのプロジェクトを立ち上げた。歩行者優先を実践し、伝え、仲間を増やすという3つを理念に掲げている。

賛同する企業はオフィシャル・ロゴを使用して、ホームページに掲載したり、日ごろから道路交通法第38条を意識した運転をし、その様子を動画にして配信するなどして周知を図っている。

行動目標は8つある。


① 1つ目の◇マークを見たらアクセルオフ
② 2つ目の◇マークを見たら減速
③ 横断歩道付近に歩行者がいたら一時停止
④ 歩行者がいるかいないかわからないときは止まれる速度で進行
⑤ 横断歩道手前で車両を追い抜く時は一時停止
⑥ 歩行者とは距離を空けて進行
⑦ 後続車から追突されないように早めのブレーキ
⑧ 発進時は歩行者等、周囲確認の徹底

トラックやタクシー業界にとって新しい風

人の命を預かったり経済活動を支える旅客運送や貨物運送の事業者にとって、安全対策は何よりも大切だ。事務所や工場で管理者が従業員をトップダウンでマネジメントするのとは違い、車両に乗り一人でハンドルを握る従業員を管理することは難しい。どれだけ従業員が気をつけていても、その姿勢に気づけないことも多い。ましてや、社会からはさらに見えづらく、ひとたび事故が起きると事業者のイメージは大きく落ち込んでしまう。

安全対策はこれまで社内での危険箇所の共有程度にとどまっていた。社内や業界内で意識の高い従業員が表彰されることはあっても、一般社会へ発信するような発想は弱かった。

そんな旅客運送や貨物運送の業界にとって、Respect the Law 38プロジェクトは新しい風を吹き込んでいる。このプロジェクトは安全対策の見える化であり、ハンドルを握る従業員にとっての士気向上につながっているからだ。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

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