コラム

体調異常・居眠りを検知 マツダの新技術「コ・パイロット」に期待すること

2021年11月12日(金)19時00分

kusuda211112_mazda_2.jpg

「MAZDA CO-PILOT」搭載車両に試乗する筆者 写真提供:マツダ

普及期になると日本の自動車メーカー間で連携し、社会貢献していく共通のガイドラインを各社は持っている。それにもかかわらず、ドライバー異常を検知する技術を他社が出さないのはなぜか。

それは、自動車メーカーごとに自動運転技術に対する考え方が異なるからだ。メディアが注目し、多くの自動車メーカーが現在挑戦している技術は、ドライバーはまったく運転せず、自動車がドライバーに代わって運転するというもの。

マツダはあくまでドライバーが自らの意思で自動車を運転し、体調・操作をモニタリングしながらその運転を支えるパートナーとして安全技術を使っていこうと考えている。

筆者は安全技術や自動運転について取材を続けているが、周知の通り、完全にドライバーの代わりをするような自動車を誰もが手にする時代は随分先になると見ている。今現実的に必要とされる安全技術は、高齢ドライバーが増える中で、彼らが自らの意思で自動車を運転する期間(運転寿命)を延伸させ、移動と暮らしの自由を支える技術だと考える。

マツダのドライバーの異常や予兆を検知する技術は、病気や衰えによる姿勢の崩れ、視線・頭部の挙動、ハンドル・ペダル操作量などの運転行動から分析する技術だ。そのため認知症の予兆、バスやトラックドライバー間で問題となっている睡眠時無呼吸症候群の予兆なども拾い出すことができる。

運転スキルの確認、家族による見守りが可能に

高齢ドライバーのいる家族からは「父母の運転は大丈夫だろうか」「そろそろ運転をやめてほしい」、また本人から「いつまで運転できるか心配だ」との声を多く聞く。日本の仕組みの中には、免許更新時に高齢者講習などがあるものの、いつまで運転していいのか客観的にスキルを測定して知ったり、見直したりする機会が一般的にない。本人や家族らによる主観的な判断により、運転免許証を返納している。

日々の運転行動をモニタリングし、スマートフォンなど見やすいインターフェースで本人や家族が確認できるようになれば、運転スキルの見直しや家族による見守りも可能となる。そうなれば、運転しながら自分の生活を楽しむ時間が少しだけ長くできるかもしれない。2025年以降にはこうしたことがMAZDA CO-PILOTで実現できるという。

さらには、日々の運転行動のデータを提出して運転適性を証明するなど免許更新の仕組みを変える可能性もある。

このように新しく日本で生まれたドライバー異常や予兆を検知する技術は、大きな社会問題となっている高齢者の事故や免許返納問題へ貢献する技術として非常に興味深い。できるだけ早くマツダが普及させ、他社も協調しながら追随し、安全でできるだけ長く自由な移動を楽しめる社会を実現させてほしいと思う。

20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

貿易分断で世界成長抑制とインフレ高進の恐れ=シュナ

ビジネス

テスラの中国生産車、3月販売は前年比11.5%減 

ビジネス

訂正(発表者側の申し出)-ユニクロ、3月国内既存店

ワールド

ロシア、石油輸出施設の操業制限 ウクライナの攻撃で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story