コラム

公園のデザインに見る日本と欧州の防犯意識の違い

2025年03月05日(水)11時00分

繰り返しになるが、これらの公園に共通しているのはフェンスである。つまり、城壁都市における壁が公園ではフェンスに変わっているのだ。実は、このフェンスに対する概念も日本と海外では真逆である。それが端的に分かる例が、映画『フェンス』に対する見方の違いだ。

『フェンス』は、デンゼル・ワシントン監督・主演の映画。アカデミー賞の作品賞、主演男優賞、助演女優賞、脚色賞にノミネートされ、ビオラ・デイビスが助演女優賞を獲得した。それほど高い評価を得たにもかかわらず、不思議なことに、日本では劇場公開されなかった。

それはさておき、タイトルの「フェンス」が持つ学術的な意味については、『写真でわかる世界の防犯 ──遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館)の中で詳しく触れた。簡単に言えば、「フェンスは守りの基本形であり、フェンシングやディフェンスともリンクするキーワード」ということだ。つまり、ポジティブな概念なのである。ところが、日本人の多くは、「檻のようだ」として、ネガティブな概念を抱いている。

ポジティブにとらえる欧米人、ネガティブにとらえる日本人

「フェンス」をめぐる欧米人と日本人の意識の違いは、映画『フェンス』に対する批評においても見て取れる。例えば、日本のある新聞では、「フェンス」の意味を、「人種間の壁であり、夫婦の溝であり、親子の葛藤である」と説明している。しかし、この解釈は的外れだ。欧米メディアの解釈とは異なる。

映画の中でビオラ・デイビスが歌っているゴスペル「JESUS BE A FENCE AROUND ME」(イエスよ、私を囲むフェンスになって)からも明らかなように、ここでの「フェンス」の意味は「人種差別という悪魔から家族を守るもの」だ。つまり、この映画は、フェンスの中に息子をつなぎとめて守りたい父親と、フェンスの外に出てリスク覚悟でチャレンジしたい息子、そして両者の気持ちが分かる母親が織りなす人間模様を描いた作品なのである。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 8
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story