コラム

危うさを含んだ「正義」の行使...「自警団系ユーチューバー」を自警団成立の歴史から考える

2023年11月14日(火)11時20分

もっとも、警察は自警団を高く評価し、それを活用しようとしていたため、裁判では被告人のほとんどが無罪あるいは執行猶予になった。このように、日本の自警団の成立には、震災によるパニックという自然発生的な要素が影響したものの、それ以前に全国各地で進められていた自衛組織づくりという国の政策が大きな役割を演じた。この点が、英米の自警団の成立過程と異なるところだ。

震災時に一部の自警団に見られた逸脱について、警察は統制が弱かったために生じたと考えた。そのため、自警団に対する監督が強化され、自警団は警察の下部組織としての性格を強めていった。1940年には、全国的に町内会の整備が図られ、町内会も市町村行政の下部機構と化した。こうして、一般大衆は権力構造の末端に編成され、市民の警察化が戦時体制の深化とともに完成していく。しかしそれも、敗戦後、GHQ(連合軍総司令部)によって否定されることになる。

 

このように、かつて日本では、自警団系ボランティアの暴走があった。もっとも、その程度がより著しいのは、国家としては後発のアメリカだ。

処罰が徐々にエスカレート

そもそも、自警団員(vigilante)という単語は、寝ずの番(vigil)、用心深い(vigilant)、警戒(vigilance)と同じ語源のラテン語から派生した語だ。したがって、自警団員による活動は非合法的・超法規的であるとか、自警団員による活動に処罰が含まれると考える必然性はない。しかし実際には、自警団の歴史は手に負えない運動の事例に満ちている。

特に、刑事司法制度の整備が辺境で遅れた18~19世紀には、法を擁護するため法を犯すことは必要だとして、超法規的な活動が自警の主流になった。実業家、知的職業人、富裕農場経営者から選ばれたリーダーの下、自警団は、疎外された人々によって開拓地が乗っ取られることを恐れて、馬どろぼう、強盗、偽金造り、放火魔、殺人者、奴隷、土地略奪者などと戦った。

自警団による処罰についても、当初は、むち打ちと追放が一般的だったが、やがて絞首刑が通例になっていった。そのため、リンチの意味も、1850年代に、むち打ちから殺害へと変わった。1767年から1910年の間に、700人以上が自警団によって処刑されたという。

20世紀になると、カトリック教徒、ユダヤ人、黒人、急進論者、あるいは労働運動のリーダーを標的とする自警団が勢力を伸ばした。さらに、1960年代になると、「ブラック・パンサー」と名乗る黒人の武装自警団が注目されるなど、自警団の数も急増した。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story