コラム

危うさを含んだ「正義」の行使...「自警団系ユーチューバー」を自警団成立の歴史から考える

2023年11月14日(火)11時20分

アメリカとイギリスの自警団に共通するのは、地域の名士が安価で迅速な安全確保のメカニズムを創出するため設立した点と、社会変動期に出現した点である。ただし、社会変動が空間的形態を取ったアメリカでは、辺境の開発による刑事司法の機能不全が背景にあったが、社会変動が構造的形態を取ったイギリスでは、産業化と都市化による刑事司法の機能低下が背景にあった。

さらに、アメリカの自警団が、しばしば法が許す範囲から逸脱したのに対し、イギリスの自警団は、法に対する執着を保持し続けた。もちろん、イギリスでも、自警団の暴走がなかったわけではないが、アメリカに比べれば、低いレベルだった。イギリスの自警団が警察と協調的なのは、イギリスが近代警察発祥の地であるという歴史が影響している。

 

アメリカもイギリスを追随

そもそも、安全確保活動(policing)という単語は、政治形態(polity)、政治学(politics)、政策(policy)と同じ語源、すなわち、ギリシャ語の市民政体(polis)から派生した語である。したがって、安全確保活動は、国家の法的機能というよりも、むしろ市民社会の政治的機能に関連するものだ。

そのため、安全確保活動を国家機関が独占的に演じる役割と考える必然性はない。実際、警察(police)という単語も、18世紀になって、秩序維持という特定の機能を指すものとして使用され始め、まもなく特定の職員を明示するものとして限定的に用いられるようになった。したがって、それ以前、つまり、警察という語が現在のように用いられる前には、民営の安全確保活動が重要な役割を演じていたわけだ。

それはともかく、アメリカも国家として成熟するとともに、イギリスのように、自警団が警察と協働するようになった。というのは、地域社会は、自警団より警察力の増強を望んでいたからだ。地域にとって自警団は、法が許す範囲から逸脱したり、不適格な者の参加を認めたりする組織に映っていたのである。

協調的な自警団として代表的な組織は、1979年にニューヨークで創設された「ガーディアン・エンジェルス」だ。日本でも、1996年に日本ガーディアン・エンジェルスが設立されている。

komiya231113_youtuber2.jpg

ガーディアン・エンジェルス創設者のカーティス・スリワ(右)とニューヨーク市長のルドルフ・ジュリアーニ 筆者撮影(1998‎年)

前述したように、日本の自警団は、町内会といった伝統的な住民組織を基盤にし、特定の地域社会において活動している。対照的に、ガーディアン・エンジェルスは、近代的な市民活動団体として、特定の地域社会を越えて活動している。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

利下げには追加データ待つべきだった、シカゴ連銀総裁

ビジネス

インドCPI、11月は過去最低から+0.71%に加

ビジネス

中国の新規銀行融資、11月は予想下回る3900億元

ビジネス

仏ルノー、モビライズ部門再編 一部事業撤退・縮小
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 4
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 10
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story