コラム

犯罪が後を絶たないのは、日本のトイレが構造上世界一危険だから

2022年10月14日(金)11時20分
日本のトイレ

日本のトイレは「入りやすく見えにくい場所」にあることが多い(写真はイメージです) aozora1-iStock

<防犯ブザーや監視カメラの導入よりも根本的に変えていくべきことがある>

先月、香川県善通寺市のスーパーの女子トイレに自衛官が侵入し、個室の下からスマートフォンを差し向け、盗撮しようとして逮捕された。京都市の飲食店でも、警察官が女子トイレに侵入し、個室の上からスマートフォンで盗撮したとして逮捕された。長野県諏訪市では1月、公衆トイレの女子トイレ内に高校生が侵入し、わいせつな行為をしようとして逮捕された。

なぜこうもトイレで犯罪が頻発するのか。

それは、日本のトイレが構造上、世界の中で最も犯罪が起きる確率が高いからである。なお、これはあくまでも「構造上」の評価なので誤解のないように願いたい。

日本のトイレが世界一危険だとする理由は、トイレの設計が場所の犯罪誘発性に注目する「犯罪機会論」に依拠していないからだ。対照的に海外のトイレの設計には、防犯対策のグローバル・スタンダードである「犯罪機会論」がしっかり盛り込まれている。

「犯罪機会論」が重視するのは、領域性(入りにくさ)と監視性(見えやすさ)である。言い換えれば、場所で守る「ゾーン・ディフェンス」であり、それによって、無理なく、無駄なく、むらなく犯罪機会を減らすことができる。

しかし、日本の取り組みは防犯ブザーや護身術などに偏っている。これは個人で防ぐ「マンツーマン・ディフェンス」である。したがって格差やばらつきが生じやすい。

こうして、日本では危険な「入りやすく見えにくい場所」が放置され、安全な「入りにくく見えやすい場所」に変えていく努力が行われていないのだ。

監視カメラは10台設置されていたが...

例えば、熊本女児殺害事件(2011年)の殺害現場となったスーパーのトイレも「入りやすく見えにくい場所」だった。

まず、性被害に遭いやすい女性のトイレは、手前にあるので「入りやすい場所」だ。次に、トイレの入り口は壁が邪魔をして、買い物客や従業員の視線が届きにくい「見えにくい場所」である。もちろん、犯人が女児と一緒に入った「だれでもトイレ」も「見えにくい場所」だ。

そこでわいせつ行為を犯していた犯人は、トイレの外から女児を捜す声が聞こえ、ドアをノックされたのでパニックに陥り、女児の口をふさぎ窒息死させた。

komiya_kumamoto.jpg

殺害現場のトイレ 筆者撮影

なお、スーパーには監視カメラが10台設置されていたが、それでも「見えやすい場所」にはならなかった。なぜなら、監視カメラが怖いのは、犯行が発覚するかもしれないとビクビクしている犯罪者だけだからだ。

この事件の犯人は、監視カメラがある店で4時間もの間、堂々と女児を物色していた。この事実から、犯人が犯行は発覚しないと思っていたことが推測される。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を大幅に拡大、広範囲制圧へ

ワールド

中国軍、東シナ海で実弾射撃訓練 台湾周辺の演習エス

ワールド

今年のドイツ成長率予想0.2%に下方修正、回復は緩

ワールド

米民主上院議員が25時間以上演説、過去最長 トラン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story