コラム

犯罪が後を絶たないのは、日本のトイレが構造上世界一危険だから

2022年10月14日(金)11時20分

当初の犯行計画では、「だれでもトイレ」に女児と一緒に入り、わいせつ行為を犯すものの性犯罪だと感づかれない程度にとどめ、女児が被害に気づく前に解放するつもりだったのだろう。監視カメラに自分の顔が捕らえられたとしても、犯行が発覚しない以上、録画映像が見られることもない。犯人はそう思っていたに違いない。

ところが、トイレまで子どもを探しに来るという想定外の展開に慌てふためき、計画に反して殺人へと至ったのだ。

トイレを安全な「入りにくい場所」にするための戦略は「ゾーン・ディフェンス」である。そして、その戦術は「ゾーニング(すみ分け)」だ。ゾーニングは、互いに入りにくい状況を作る基本原理なのである。

ゾーニングの発想に乏しい日本のトイレ

次の図は、日本と海外の公共トイレのよくあるパターンを比較したものである。ゾーニングの優劣を確認していただきたい。

komiya_compare.jpg

公共トイレの国際比較(①は日本、②は海外) 筆者作成

日本のトイレは通常、三つのゾーンにしか分かれていない。男女専用以外のゾーンには「だれでもトイレ」などと名付けられ、身体障害者用トイレは男女別になっていない(入りやすい場所)。

前述したように、熊本女児殺害事件(2011年)の殺害現場も「だれでもトイレ」だった。日本でゾーニングの発想が乏しいのは、「何事もみんなで」という精神論がはびこっているからかもしれない。

これに対し、海外のトイレは通常、四つのゾーンに分かれている。日本と異なり、男女別の身体障害者用トイレが設置されることもあれば、男女それぞれのトイレの中に障害者用個室が設けられることもある。

利用者層別にすみ分けされ、犯罪者が紛れ込みにくい「入りにくいトイレ」は安全である。

例えば、韓国・天安駅のトイレは、ゾーニングがしっかりできている。

komiya_korea.jpg

出典:『写真でわかる世界の防犯──遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館)

写真の左手前から男子用、女子用、右手前から男性身体障害者用、女性身体障害者用、と四つのゾーンを設けている。しかも、被害に遭いやすい女性のトイレは、男性がスッと入り込むのを防ぐため、奥まったところ(入りにくい場所)に配置されている。

海外では、男子トイレの入り口と女子トイレの入り口が、かなり離れていることも珍しくない。入り口が離れていると、男の犯罪者が女性を尾行して、女子トイレに近づくだけで目立ち、前を行く女性も周囲の人もおかしいと気づくからだ。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページはこちら。YouTube チャンネルはこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中ロ首脳会談、緊密な関係称賛 プーチン氏に訪中招請

ビジネス

米TI、半導体設計会社シリコン・ラボラトリーズ買収

ワールド

ガザで子ども含む21人死亡、イスラエル軍は銃撃受け

ビジネス

テスラの中国製EV販売、1月は前年比+9.3% 3
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 3
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れるアメリカ」に向き合う「日本の戦略」とは?
  • 4
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 5
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 6
    地球の近くで「第2の地球」が発見されたかも! その…
  • 7
    最長45日も潜伏か...世界が警戒する「ニパウイルス」…
  • 8
    アジアから消えるアメリカ...中国の威圧に沈黙し、同…
  • 9
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 10
    電気代が下がらない本当の理由――「窓と給湯器」で家…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 5
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 6
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 7
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 8
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 9
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 10
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story