コラム

日本のAI犯罪予測システムに期待できない理由

2022年05月18日(水)10時40分

私は、地域安全マップづくりやホットスポット・パトロールの指導で全国各地を訪れているが、現地の住民や警察官と一緒にフィールドワークをすることも多い。

その際、私が「今日歩いた中では、ここが一番危険そうですね」と話しかけると、「実は昨年、ここで事件が起きたんです」などと教えてもらうこともしばしばだ。どうやら30年に及ぶ「犯罪機会論」の研究と実践の末、犯罪者と同じ目線に立てる能力を獲得したようだ。

新潟女児殺害事件(2018年)では、事件直後に記者と地域を歩き、「ここが危険」と指摘したところ、数日後にそこが誘拐現場だと判明した。そのため、NHK「おはよう日本」で、その様子が放送され、キャスターが「専門家が、ここが危険と指摘した、まさにその場所で連れ去られた可能性が高いんです」と伝えていた。

もっとも、こうした「景色解読力」は特殊なものではない。私の場合、留学中に偶然「犯罪機会論」と出会い、訓練が始まった。イギリスの警察学校には、この研修コースもある。日本でも、私の研究仲間や教え子は、この能力を備えている。

訓練次第で獲得できる能力なら、AIも学習できるはずだ。

例えば、私が1000枚の街頭写真を見て、その場所の危険度を5段階で評価し、その理由を「犯罪機会論」のキーワード(入りやすい、見えにくい)を用いて示す。そのレポートをAIが学習すれば、高精度の犯罪予測システムができはしないか。そして、その犯罪予測AIが、自動運転車、移動ロボット、自動飛行ドローンをナビゲートすれば、コストパフォーマンスのいいパトロールができるかもしれない。ちょっとワクワクするのは私だけか。

*景色解読力(犯罪機会論)による犯罪予測については、次ページの動画をご覧いただきたい。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

マスク氏のX買収向け融資、銀行団が55億ドル分の債

ビジネス

米AMDのAIチップ売上高さえず、時価総額150億

ワールド

トランプ米大統領のガザ巡る発言、与党議員からも困惑

ビジネス

TikTok親会社、売却交渉急がず 中国政府の承認
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国経済ピークアウト
特集:中国経済ピークアウト
2025年2月11日号(2/ 4発売)

AIやEVは輝き、バブル崩壊と需要減が影を落とす。中国「14億経済」の現在地と未来図を読む

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギー不足を補う「ある食品」で賢い選択を
  • 3
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 4
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    マイクロプラスチックが「脳の血流」を長期間にわた…
  • 7
    「僕は飛行機を遅らせた...」離陸直前に翼の部品が外…
  • 8
    スーパーモデルのジゼル・ブンチェン「マタニティヌ…
  • 9
    【USAID】トランプ=マスクが援助を凍結した国々のリ…
  • 10
    AIやEVが輝く一方で、バブルや不況の影が広がる.....…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 4
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 5
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 6
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 7
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギ…
  • 8
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 9
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story