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岸田首相襲撃で「テロリズム連鎖の時代」が始まるのか
岸田首相を襲った木村容疑者を取り押さえた瞬間 Twitter@Ak2364N/via REUTERS
<岸田首相が遊説先の和歌山市で襲撃された。24歳の容疑者の動機はまだ定かでないが、昨年の安倍元首相銃撃に続くテロリズムの連鎖は「新しい戦前」論を否応なく想起させる>
4月15日午前11時半頃、衆議院和歌山1区補選の選挙応援で和歌山市の雑賀崎漁港を訪れていた岸田文雄首相が襲撃された。演説を始めようとした岸田首相に対して男が「銀色の筒」を投げつけ、聴衆やSPに取り押さえられた直後に大きな爆発音と白煙があがった。岸田首相にけがはなかったが、選挙期間中の遊説会場で白昼なされた暴挙に衝撃が走った。
現職首相に対する襲撃は戦後3例目だ。昨年の安倍晋三元首相は総理経験者の事案だが、1960年7月に岸信介首相が首相官邸前で太腿をナイフで6カ所も刺され重傷を負い、1975年6月には佐藤栄作元首相国民葬に参列していた三木武夫首相が顔面を殴打されている。実行犯はいずれも「右翼活動家」だったが、今回、威力業務妨害で現行犯逮捕された兵庫県川西市在住の木村隆二容疑者(24)がどのような背景を持っているかはまだ分かっていない。
しかし、この事件は今後、昨年の参議院選挙中に発生した安倍晋三元首相暗殺事件との「関連性」に否応なく焦点が当たるだろう。
銃撃犯の山上徹也被告は殺人罪などで起訴されたものの未だに公判前整理手続も始まっていない段階であり、公判廷における事件の真相解明はこれからだ。その山上については巷間、旧統一教会への私的怨恨が動機であり、「失われた30年」のロスジェネ世代論から犯行を分析する声もあがっている。
しかし、政治的に絶大な影響力を誇っていた安倍氏を狙った山上の凶行が「テロ性」、すなわち社会に対する公的な憤りを暴力による恐怖で解決する側面を有していたことは否定し難い。また、民主政にとって本質的に重要な選挙演説の最中に行われたことの政治的意味合いも軽視してはならない。安倍元首相暗殺事件はその後の自民党内の派閥バランス変動も含めて、令和日本の政治を揺り動かす転換点になっている。1人のテロリストがこれほど日本政治に影響を及ぼした例は近年ないだろう。
今回の襲撃事件も同様に、選挙期間中に行われたものだ。安倍元首相事件後の選挙遊説会場での要人警備強化策が功を奏したのか、幸いにも大事には至らなかったが、大勢の聴衆の中でパイプ爆弾状のものが投げ込まれた事実は残る。軽井沢でのG7外相会合直前のタイミングでもある。そうした警備の問題に加えて、政治的文脈で今回の実行犯が山上徹也の「模倣犯」と言えるのかが、重要な問題としてわれわれに突きつけられている。
木村隆二容疑者が一匹狼型の単純模倣犯なのか、それとも山上のテロリズムを称賛するような狂信的な「信者」の一人としての模倣犯なのか、詳細はまだ不明である。しかし現時点でのニュース速報映像を見る限り、SPに取り押さえられた木村容疑者の相貌が、山上に酷似している印象を与えることに驚かされる。これは単なる偶然か、それとも意図的な模倣か。
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