コラム

ガソリン車など「完全禁止」に突き進む英国...メーカーからは「持続不可能」「存続の危機」の声

2024年10月16日(水)12時31分

ゼロエミッション車の加速に財政的インセンティブを

SMMTとトヨタ、ホンダ、日産を含む英国の主要自動車メーカー12社は「ネット・ゼロ」目標を支持しているとしてレイチェル・リーブス英財務相にZEV導入を加速させるための財政的インセンティブの導入を求める緊急書簡を送った。ポイントは次の通りだ。

「ZEV規制が導入されたにもかかわらず、市場は低迷している。業界は目標達成に苦戦しており、企業はクレジットの購入や巨額のコンプライアンスコストを払わなければならない恐れがある。技術革新への投資を圧迫し、コスト増が消費者に転嫁されることにもなりかねない」

・ZEVに対する付加価値税(VAT、日本の消費税に相当)を3年間半分に半減する。
・税制上、ZEV購入者に不当なペナルティを課さないようにする。
・公共充電のVATを家庭での充電(5%)と一致させる。
・社用車購入者支援などビジネス・インセンティブを維持・拡大する。
・来年3月以降もプラグインのバン・タクシー助成金プログラムを継続する。

英自動車製造販売者協会(SMMT)のマイク・ホーズCEO(最高経営責任者)は「コンプライアンスのコストは天文学的であり、持続不可能だ。市場の低迷により、環境への取り組みが危機にさらされ、将来の投資が危険にさらされている」という。

欧州連合(EU)離脱で英国の主要な輸出産業である自動車は大きな打撃を被った。排出量削減を巡る環境政策も前保守党政権下で長期ビジョンを欠き、漂流を続けてきた。

電動化を加速させるためにはムチ(コンプライアンス)だけでなくアメ(財政的インセンティブ)と充電インフラ整備など包括的な政策が必要なのは言うまでもない。

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プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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