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救命医療を待つ間に「消える命」が週300人近く...「揺りかごから墓場まで」福祉国家イギリスに何が起きている?
chrisdorney/Shutterstock
<人員や資金の不足などによりNHS(国民保健サービス)が逼迫。がんを早期発見できたキャサリン妃はまだ幸せとすら言える英国の惨状とは>
[ロンドン発]原則無償で医療サービスにアクセスでき、かつては「揺りかごから墓場まで」の福祉国家モデルともてはやされた英国のNHS(国民保健サービス)が逼迫し、昨年、長い待ち時間が原因で週268人以上のA&E(救急救命センター)の患者が死亡したと推定されている。
英国ではコロナ危機で23万2000人超の死者が出た。世界に先駆けてコロナワクチンの集団接種を展開したものの、ワクチン接種と自然感染を組み合わせた集団免疫(人口の一定割合以上の人が免疫を持つと感染拡大が収まる状態)を目指した代償と後遺症は大きい。
昨年3月時点で英国の人口の2.9%に相当する推定190万人がコロナ後遺症を報告した。うち130万人は1年以上、76万2000人は2年以上症状が続いた。一般的な症状は疲労(患者の72%)、集中困難(51%)、筋肉痛(49%)、息切れ(48%)で、英国の労働力不足に拍車をかける。
コロナ対策に医療資源を集中させたため、他の患者は後回しにされ、大量の積み残しが出た。欧州連合(EU)離脱派はEUを離脱すれば「NHSに投入できる資金を増やせる」と唱えたが、EUからの新規看護師はゼロ近くに減少、歯科医師の採用も長期にわたって減り続けている。
150万人以上の患者が12時間以上待たされる
英国の王立救急医学会によると、昨年、150万人以上の患者が12時間以上待たされ、そのうち65%が入院待ちの患者だった。「標準死亡率」を使って死者数を推定すると、入院前に8~12時間の待ち時間を経験した患者72人ごとに1人が死亡している。
12時間以上に及んだ待ち時間に関連した超過死亡は1万4000人近く、死者は週268人以上にのぼったと推定される。英国政府とNHSイングランドは昨年1月から救急救命医療サービス改善のため病院のキャパシティーや医療従事者数を増やして待ち時間を減らす計画に取り組む。
しかし病院のベッド稼働率は常に平均94%以上と依然として高いまま。余裕のある稼働率85%を達成するにはさらに1万1000床以上のベッドが必要だ。今年2月、A&E の待ち時間を4時間にする目標を達成した患者の割合は56.5%で、昨年1月に比べ1.5ポイントも低下した。
入院患者数は1年後に10%増加すると予想されている。しかし最新の数字では退院決定後も入院している患者は1日平均1万3690人で、昨年1月より275人減っただけだ。王立救急医学会のエイドリアン・ボイル会長はこう言って唇を噛みしめる。